SCANDAL


















――――ごめん。用事が入って、明日会えなくなった。

アスランの自宅に訪問して二日後、彼からメールが入った。
アスランの方から約束をキャンセルされることは初めてだったが、彼もカガリも社会人だ。
どうしても外せない仕事のスケジュールが急に入ったり、予定が変わることだってある。
現に、カガリの方から日程や時間を変更してもらったことも何回かある。
だから、彼の方だってそういうこともあるだろうと、全く落胆しなかった・・といえば、それは嘘になる。

「ふう・・・」

携帯電話を握りしめて、カガリは息をついた。
予定通り明日会うことが出来たなら、それはアスランのマンションに訪問してから初めての顔合わせになるはずだった。
アスランに抱きしめられたときの、彼の感触、体温、息遣いまでも、はっきり覚えている。
どきどきと心臓は高鳴り、どうしようもなく恥ずかしいのに、彼の腕のなかにいると、とても安らいだ。
ずっとこのままで居られればと思った。
自宅に帰ってからも、ふとしたときに、アスランのことが頭に浮かんでくる。
鈍いカガリでも、これは恋なのだと分かった。
本当はもっと前からアスランのことを好きになっていたのかもしれないが、こうやって自分の感情を定義づけ認めてしまえば、その想いは急速に膨れ上がり、会ったばかりなのに、もう
アスランに会いたくなっている自分がいた。
会いたい。
優しく真摯なエメラルドの瞳が、自分より一回り大きい、筋張った綺麗な手が、細身でしなやかだけど逞しい身体が恋しい。
だから、約束の水曜日を、カガリはとても心待ちにしたいたのだ。

「仕方ない・・・よな」

早く会いたいと思う反面、好きな人に会うのは緊張する。
恋愛に不慣れなカガリにとっては尚更のことだ。
だから少し安堵したのも事実だったが、それでも落胆の方が大きかった。

―――そっか。仕方ないよな。気にするな。

そうメールを打ちながら、アスランはすぐに他の日程を提案してくれると、今までの彼とのやり取りや、彼の人柄で、カガリはなんの疑問も無しにそう確信していたのだが。
5分待っても、アスランからの返信は来なかった。

「どうしたんだろう・・・」

律儀な彼はいつもすぐに返信をくれた。
それが難しい場合は、前もってそれを教えてくれていたのに。
カガリは訝しむか、きっと彼も忙しいのだろう。
世間一般から見て、今までの彼が、律儀過ぎたのだ。

気長に待っていれば、返信はそのうち来るだろうと思っていたのだが。
それが30分、1時間、翌日になっても、結局彼からのメールは来ないままだった。







「今日の試合ですが、ザラ選手はスタメンから外れているようです」

大勢のモデルやヘアメイクさんでざわめく楽屋の中でも、ザラ選手という単語がしっかりと耳に残った。
メイクをしてもらっていたカガリが、慌てて楽屋に置かれたテレビに視線と意識を向けると、今日行われるサッカーの練習試合についてのニュースが流れていた。
来月から行われるワールドカップの前哨戦とも言われ、世間の関心度も高い試合に、エースであるはずのアスランがスタメンではないという事実に、コメンテーターが神妙な顔をしている。
サッカー関係者だというそのコメンテーターの話によると、このところ、アスランの調子があまり良くないらしい。
今日の試合、スタメンどころか、ベンチにも入っていないというのだ。

「カガリちゃん、どうしたの?」

カガリの様子が変わったことに、ヘアメイクの担当者が声を掛けてきた。
視線だけのはずだったのだが、知らないうちに、顔もテレビの方向に向いてしまっていた。

「あ・・いえ・・」

すみませんと、カガリは顔を正面に戻したが、心中は元には戻らなかった。

あれからアスランから全く連絡が来ない。
何かあったのかと心配になったカガリが何通か自分からメールをしてみたが、その返信もない。
アスランから一週間以上音沙汰が無いのは、初めてのことだった。

そのアスランがスタメンを外されている・・・・

やっぱり、何かあったんだ・・・!!

そう思うと居てもたってもいられず、心ここにあらずな状態で撮影を終え、カガリはその足でアスランのマンションに向かったのだった。









アスランが困っているなら、つらいのなら、助けになりたい。
そう思うのは、傲慢かもしれない。
でも・・・居てもたってもいられなかった。

だって・・・アスランが、好きだから。

アスランと出会って、親交を深めて、初めて知ったその感情に、カガリは素直に身を任せた。





けれども、待っていた展開は、恋を知ったばかりの少女に優しいものではなかった。



―――――俺を慰めてよ



―――――他の男にもさせているんだろう?!俺にも同じことをさせろよっ!!
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