SCANDAL
「アスラン、今日暇?」
今日の練習が終わり、ロッカールームで着替えをしていると、同じクラブチームのメンバーであるディアッカに声を掛けられた。
「ZAFT」きってのプレイボーイと自他とも認めるチームメイトの、含みのあるニヤニヤした笑みに、彼が何を言おうとしているか、アスランは瞬時に悟り、顔を背けた。
「いや・・俺はちょっと」
「どうせ暇なんだろ?!」
断りを入れようとしたアスランを遮り、ディアッカが意気込んで言った。
「お前付き合い悪すぎ!いや、それ以前に愛想が無さすぎだ。別に俺たちに対してだけだったら、それでも構わないさ。でもなあ・・・ファンの女の子に対する態度、あれはないと思うぜ」
「・・・」
わざとらしくため息をつくディアッカに、アスランはむっと黙り込んだ。
ファンへのサービスの悪さ、インタビューでの愛想の無さは、チームのマネージャーから幾度無く注意されていることだったが、そもそもアスランはスポーツ選手なのであって、決してアイドルではない。
何故、世間一般に媚を売る必要があるのだと、マネージャーにくどくど説教を受けるたびにアスランは内心不満に思う。
あからさまに機嫌の悪くなったアスランに、ディアッは諭すように言った。
「確かに俺たちはスポーツ選手だ。サッカーが本業。それは分かってる。でもプロの世界は色々あるってお前も分かっているだろ?スポンサー様がいるから、俺たちはクラブチームとしてやっていけるんだ。その為にはこっちだってサービスしないと」
サービス。
それは、カメラの向こうやキャーキャー騒ぐ女の子たちに笑顔を振りまくことなのだろうか。
ただ純粋にボールを追い、鍛え上げた経験と技術、そして本能と勘によって、狙ったとおりのボールの軌跡を描く。
鳥肌が立ち、喜びを爆発させるその瞬間を、ファンに披露することこそが、本当のサービスなのではないか。
そんなふうに思う一方で、アスランとて子供ではない。
ディアッカの言う「サービス」が大事だということもよく分かっていた。
ただ自分はどうしても、そういうキャラではないのだ。
「お前の愛想の無さは、コミュニケーション不足が原因だ。そこで優しい俺は、そんなお前に人付き合いの練習の場所を設けてやる!合コ・・・いや、飲み会という名のな!」
「すまないが、断る」
「おい!今の話の流れ、聞いてなかったのかよ」
「今の話と合コンは関係ないだろう」
ディアッカをばっさり切り捨て、アスランはロッカーを閉めた。
今日はこのまま真っ直ぐ家に帰って、本でも読もう。
後ろでギャアギャア喚くディアッカを無視し、出口に向かおうとしたアスランだったが、まだあきらめないのか、追ってきたディアッカがなれなれしく肩を組んできた。
「おい!今日の相手はな、なんとグラビアアイドルなんだぞ!」
「だから?」
「男のロマンだろ?!」
意味が分からない。
縋りつくディアッカを、引きはがそうとしたアスランだったが。
「アスラン。ディアッカがそこまで言ってるんだ。お前、たまには付き合ってやれよ」
「ハイネさん・・・」
更衣室の椅子に座っていたハイネの鶴の一声。
高校からの先輩であり、二歳年上のハイネに、アスランは逆らえない。
かくして、アスランの今日はゆっくり本を読むという予定は無残に打ち砕かれたのだった。
合コンなんて・・・・
「合コンなんて、くだらん!!」
そう思っていたのは、アスランだけではなかったようで、一歳上のイザークが洒落た居酒屋の個室で悪態をついている。
「こんなことをしている暇があったら、実用書の一冊読み終わるものをっ」
声にはしないものの、アスランは内心同意した。
女の子たちは撮影が長引いているようで、男性だけで先に今日の会場である居酒屋にやってきたのだ。
居酒屋といっても外に看板の無い、常連や紹介が無いと入れないような店だった。
店内は洒落た作りになっており、メニュー表に記載されている料理もどれも品よく美味しそうだ。
ディアッカいわく、こういうときに最適な穴場らしい。
「それになんだ!グラビアアイドルだと?!週刊誌の記者どもに見つかってみろ!!サッカー選手とグラビアアイドルなんてあいつらが食付きそうな組み合わせじゃないか!いいように書かれるんだぞ!」
大丈夫、ここ個室だからとフォローするディアッカを横目に、アスランはビールに口を付ける。
イザークの言うことはもっともだ。
今ここにいるのは、同じクラブチームの、ディアッカ、イザーク、二コルに、何故か妻帯者のハイネ。
自分ではピンとこないが、マスコミの言葉を借りると、自分たちは今をときめくプラントリーグの有望若手サッカー選手、らしい。
そして今からやってくるのは、グラビアアイドル。
絵に描いたような、アスランが嫌悪するチャラチャラした構図だ。
「グラビアアイドルなんてなあ、所詮顔と身体だけが取り柄の、アホで馬鹿な女なんだっ!」
じゃな何でお前来たんだと突っ込みたくなるようなイザークの怒声と、「お待ちしておりました~どうぞこちらへ~」という従業員の声が聞こえたのは、ほぼ同時だった。