SCANDAL

―――カガリは何でグラビアアイドルになったんだ?

二人が出会って間もないころ、昼食をとりながら、何気なくそう問うたことがある。
待ち合わせ時間が日中だったので、まずは昼食を食べようということになり、何を食べたいかカガリに聞いたところ、好物のケバブだと返ってきた。
その答えは、飾らないカガリらしく好感が持てたのだが、同時に女の子という生き物ははケーキやアイスが好きで、食事はお洒落なレストランを好むものだと思っていたアスランにとっては、やや意外なものでもあった。
ましてやカガリはグラビアアイドルなのである。
女の子のなかの女の子、最も華やかな人種なのではないか。
ケバブのことだけではない。
カガリの明るく、さばさばした性格は、どうしてもアスランのなかでグラビアアイドルという職業に結びつかない。

―――私の夢を、叶えるためかな

―――夢?

カガリの答えにアスランはそう聞きかえしたが、カガリは答えずムシャムシャとケバブを口にし始めた。
カガリの夢。
それはアスランを刺激するものではあったが、カガリが積極的に話そうという雰囲気ではなかった為、アスランはしつこく聞きだすまいとした。
いつか話してくれるだろうと期待しながら、夢の為に頑張るカガリを応援しようと、決めた。







自宅に戻り、部屋着に着替え落ち着くと、アスランは早速買ったばかりのグラビア雑誌を見てみることにした。
本当はすぐにでも見たかったが、ゆっくりと落ち着いて鑑賞したかったので、まずは部屋着に着替え、身の回りを整えたのだ。
部屋には自分一人なのに、ソファの上でソワソワ落ち着かないのは何故だろう。
ハサミを使って丁寧に包装ビニールを剥がし、何にも隔たれていない表紙のカガリを見つめる。
オレンジ色の水着を着たカガリは、何度見ても本当に可愛い。
常夏の国の姫君のようだ。
写真集の中には、こんなカガリがたくさんいるのだと思うと、無意識に動機が上がる。
鼓動と期待感に急かされ、アスランはついに表紙をめくった。
どこかの南の島で撮影されたのだろう、ビーチで無邪気にはにかむカガリがそこにいた。
何着も水着を変え、青い海をバックに白い砂浜の上ではしゃぐカガリ。
その一瞬一瞬を絶妙なタイミングでカメラに切り取られている。

やっば・・・・

頬が熱くなるのを感じて、アスランは口元を押さえた。
可愛い。
可愛すぎる。

想像以上だ・・・

素のカガリも可愛いが、写真集のカガリも南国の太陽の下だからか、ヘアメイクをしているからか、普段と雰囲気が異なって、どうしようもなく魅力的だ。
早くすべてを見たくて、高揚した気持ちで次々にページをめくる。
どのカガリも、さんさんと南国の太陽を浴び、きらきらと輝いている。


しかし、アスランが素直に感動できたのはここまでだった。

胸やヒップを強調したカットがあっても、グラビアアイドルなのだ、多少は仕方ないと目をつぶっていたのだが。
撮影場所がビーチや南国の花が咲き乱れる庭から、高級ホテルに移り変わって、そこでの写真に、思わず絶句した。

元気に跳ね回る妖精は、そこにはいなかった。

白い水着を着たカガリがクイーンサイズのベッドの上で、身体をくねらせていた。

切なげな表情。
身体をくねらせたゆえに出来た白いシーツのしわ。

――――誘っている。

そうとしか思えない、扇情的なカットに、アスランの思考が停止する。

なんだ・・これ・・

呆然としたまま、アスラン震える手で次のページをめくった。
この写真は何かの間違いだと、そう思いたかったのかもしれない。
けれども、めくった先も、ベッドの上に寝そべるカガリだった。
カガリは白い水着を着ており、片足を曲げ、少しけだるげな雰囲気を漂わせている。
明らかに、情事を連想させるようなカットだった。

嘘だ・・・俺はこんなカガリ、知らない・・・

しばらくそのカットを眺めたあとで、救いを求めるように、アスランはまたもページをめくる。
アスランのよく知る、明るくて健康的なカガリを探すかのように。
しかしめくれども、アスランの目に映るのは、ベッドの上でポーズを取る扇情的なカガリの姿。

嘘だ・・・カガリがこんな・・・

そこにいるカガリは、どれもアスランの知っているカガリではなかった。
アスランの知っているカガリは、はつらつとして、男に媚を売るような女性ではない。
それなのに・・・・。

あまりのいやらしさに、アスランはくらりと眩暈がした。
カガリが、こんな。
潤んだ瞳を切なげに細めた表情。
あるカットでは淫らにくねらせ、また別のカットまるで事後を想わせるような脱力し、ベッドに沈んでいる身体。


カガリがこんな顔を、こんなポーズをとるなんて・・・


―――裏切りだ。


呆然とした頭に、やがて沸き上がったのは、そんな思いだった。

自然体で、明るいはずのカガリが、こんな淫らだったなんて。
衝撃と愕然とした喪失感のあと、アスランの胸に広がったのは絶望と、どうしようもない怒りだった。
カガリ・・・君は・・・どうしてこんないやらしいことを。
それと同時に、アスランは自分の下半身に手を伸ばす。
そこは既に張りつめ、大きく膨らんでいた。
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