SCANDAL
さっきの言葉、あれって・・・
画面から目を離さずに、映画に夢中になっている振りをしながら、カガリはアスランのことを考えていた。
映画の本編が始まっても、先ほどのアスランの言葉が頭から離れなかった。
アクション映画を選んで良かったと思う。
派手な爆発音が、煩いくらいに鳴る心臓の音をかき消してくれるのだ。
シリアスな映画だったら、きっとアスランに気づかれていただろう。
アスランも私と一緒にいると楽しいって思ってくれているのだろうか。
そう思うと、カガリはどうしようもなく嬉しかった。
それなのに、アスランの顔が見れないのは何故なのだろう。
身体が熱く、胸が高鳴っている今、アスランの姿を視界にいれることが、どうしようもないくらい恥ずかしい。
アスランの方を向かないために、カガリは張り付いたように画面を凝視するしかなかった。
その一方で、僅かな距離をあけて隣に座っているアスランの息遣いや気配に、驚くくらい敏感になっていた。
アクション映画はただの流れる映像と化し、カガリはそれに夢中になっている振りをしながら、全身でアスランを意識していた。
それでも、もともとアクション映画が大好きなカガリである。
惰性であっても、映画を見ているうちに、そのスリリングな展開と、派手なアクションに気が付いたら惹きこまれていた。
あっという間に二時間半が過ぎ、エンディングが流れたとことで、カガリはようやく一息つくことができた。
「面白かったな」
エンドロールが終わったところで、アスランがリモコンを手に取った。
「ああ。画面から目が離せなかった」
「食い入るように見てたもんな、カガリは」
互いに映画の感想を述べながら、カガリは自分がもとに戻っていることに安堵した。
いつも通り、アスランと顔を合わせながら話ができる。
「もう6時だ。カガリ、夕飯はどうする?」
駅で待ち合わせをしたのが2時だったので、映画を観終わって雑談をしていると、あっという間に夕方だった。
「この近くに、何かいい店はあるか?」
「住宅街だから飲食店はあまりないんだ」
アスランが電車で2駅ほど先の都心部に行こうかと提案したが、アスランの家に落ち着いてしまった今、夕飯の為に再び外出するのは少し億劫だった。
「じゃあさ、簡単なもので良かったら私作るよ」
「え・・・」
アスランは僅かに目を見開いた。
「わざわざ俺の家に来てもらっているのに、料理までしてもらうなんて悪いよ。だったらコンビニで何か買ったほうがいい」
「大したものは作らない。簡単なものって言ってるだろ」
ついには折れたアスランだったが、自炊はほとんどしないという言葉通り、彼の冷蔵庫には食材がほとんど入っていなかった。
結局二人でスーパーに向かって、あれもこれもと買い物をしてしまい、カガリが気合をいれた結果、当初の予定よりずいぶん豪勢な食卓になってしまった。
「カガリ、本当に有難う」
二人で洗い物を終え、ソファに落ち着くと、アスランは再度改まって礼を言った。
「いや。いつもアスランにご馳走してもらっているからな。そのお礼だ」
二人で会うとき、アスランはいつもカガリを気遣ってくれる。
その優しさに、初めて形で感謝の気持ちを返せた気がして、カガリは満足していた。
「さっき作ってやるって言ったしな」
「そうだけど、でもまさか、カガリの手料理をこんなに早く食べられるとは思わなかった」
感慨深げにそう言って、アスランは尋ねた。
「また作ってくれるか?」
「いつでもいいぞ!」
アスランが喜んでくれたことが嬉しくて、カガリは笑顔で頷いた。
「それとな、アスラン」
「ん?」
テーブルの下に置いてある鞄を引き寄せ、中から小さな袋を取り出す。
「もうすぐ、大きな試合があるだろう?」
袋の中に入っていたのは、小さな赤く光る石だった。
「ハウメアの護り石っていうんだ。アスランにあげる。お守りにしろよ」