SCANDAL
――――来週の火曜日、急きょ練習がなくなったんだけど、カガリは何か予定あるか?
――――私もその日オフだ。予定は特になかったから、家でのんびりしようと思ってたところ。
――――そうか。もしよかったら、どこかに行かないか?
――――行きたい!私、映画見たいんだ!
――――何か見たい映画があるのか?
――――特にこれっていうのはないんだけど、アクション映画が見たくて。でも、二人で映画館なんて行ったら、まずいよな。
――――じゃあ、俺の家で見る?
そんなやり取りがあって、カガリは今、アスランの家の最寄駅にいる。
カガリの家の最寄駅から、三駅ほど都心にいったところだ。
ホームの階段を下りていると、改札の向こうにアスランが立っていた。
迎えにきてくれるとは言っていたけれど、彼の姿を実際に目の当りにして、カガリの頬は自然と緩んだ。
「アスラン!」
駅はさほど混んでおらず、嬉しさから、つい大きめの声で彼の名を呼んでしまった。
しまったと思ったが、特に周りに気付かれた様子はない。
アスランにも咎める様子は見当たらず、彼は優しく微笑んでくれた。
「カガリ、ごめんな。こんなところまで」
「何言っている。近くじゃないか」
「そうだけど、こんな何もないところ」
「私のほうこそ、映画付き合ってくれて有難うな!」
平日の午前という時間帯と、住宅街でいう土地柄、あまり人とすれ違うことはなかった。
アスランの住んでいる街を、並んで歩く。
ただそれだけのことなのに、嬉しくて楽しくてしょうがないのは何故なのだろう。
たわいもない雑談をしながら歩き、途中にあるDVDのレンタルショップに入った。
もちろん、アスランの家で鑑賞するDVDを選ぶ為だ。
「カガリはアクション系が見たいんだよな」
「ああ!」
迷いなくアクション系映画のコーナーに足を運ぶ途中、ふとラブロマンス系映画のそろったコーナーが目に入った。
女の子はああいう映画を選んだ方がいいのだろうか。
そんな考えが頭を少しよぎったが、ずらりとそろったアクション映画のコーナーを見て、カガリの気分はすっかり高揚してしまった。
「うわ~!これ面白そう!」
「これにする?」
「うん!あ、でもアスランはこれでいいのか?」
「俺は何でもいいよ。カガリの好きなものでいいから」
そう言って微笑むと、アスランはカガリの手からDVDをさりげなく取り去った。
そしてそのままレジに行き、会計を済ませる。
店を出たところで、カガリは財布を取り出し尋ねた。
「DVDいくらだった?」
「いいよ、大した額じゃないから」
「でも・・!」
「いいんだよ。わざわざ俺の家まで来てくれたんだから。これくらい俺に出させてくれないか?」
アスランはそう言うが、二人で出掛けたときだっていつも、アスランが食事代を出してくれているのだ。
そんなの不公平だとカガリがしつこく粘れば、何割かは受け取ってくれるのだが、そういうときは大抵困った顔をするので、最近カガリはアスランの好意に甘えることにしている。
だから今回も有難く受け取っておくことにした。
「ありがとう」
カガリが礼を言うと、アスランはふんわりと微笑んだ。
その笑みに、カガリは目を奪われる。
世間では、無愛想だとか馬鹿がとくほどの真面目だとか言われているが、そんなものは全てデマなのではないかと思うほど、アスランは優しかった。
「どうしかしたのか?」
「なっ・・なんでもない!」
いきなり無言になったカガリを訝しみ、少しだけ近づいてくるエメラルドの瞳から、カガリは慌てて目を逸らした。
何故だが、アスランに見つめられると恥ずかしくてたまらない。
今にはじまったことではないが、今日は特にひどかった。
―――カガリはその人のこと好きなの?
不意にルナマリアに言われた言葉が頭のなかで響いた。
これって・・・これって・・・。
私、アスランのこと、好きってことなのか?
これからアスランの部屋で二人っきりになるといのに、これではますます彼のことを意識してしまうではないか。
どうしよう・・・!
焦りを抱いたカガリに、アスランがモダンなマンションの前で足を止め、爽やかに告げた。
「カガリ、着いたよ」