本編
目的地にたどり着くと、アスランは馬をとめた。
アスランがカガリを連れてきたのは、小高い丘の頂上だった。
腰を抱えてカガリを馬から降ろすと、アスランはカガリを丘の更に奥へと誘った。
生い茂る木々の間を潜ると、緑一色だった景色が一気に開けて。
「うわあ・・」
眼下に広がるプラントの街並み。
その美しく整備された景色に、カガリは感嘆の声をあげた。
丘の切り立った頂上からはディゼンベルはおろか、遙か遠くの山々まで見渡せた。
「あれが、俺たちの王宮だ」
「本当だ。ここからだと随分小さく見えるな」
カガリの横で、アスランは眼下に広がる景色の解説を始めた。
「あそこに流れてる川が、ヴェサリウス川。ディゼンベルの生命線で、何百年もここに住まう人々を見守ってきた川だ。その東は市街地。建物が密集しているだろう」
アスランが指差す先を辿れば、確かに細長い川が見えて、その東側には他よりも圧倒的に建物が密集している場所があった。
プラントはただの軍事大国だと思っていたけど、こうして見ると街は自然と共存し、とても美しい。
(オーブとは全く違うけど、プラントも・・)
「綺麗な国だろう、プラントは」
今まさに思っていたことをアスランに言われて、カガリは思わず横にいる彼を見上げた。
「俺は、ここから見るディゼンベルの景色が一番好きなんだ」
アスランはカガリに優しく微笑むと、視線を前へと戻した。
「この景色を見ると、この街で、この国で暮らす人々を守りたい、争いをこの世から無くしたいって思う」
「アスラン・・」
「君はオーブで生まれ育って、オーブを愛しているのは分かっている。当然のことだ。だけど、少しずつでいい、プラントのことも、愛してはくれないだろうか」
アスランの言葉に、カガリは僅かに目を見開いた。
「俺は君を一生大切にする。愛すると誓うよ。それと同時に、俺は王子として、プラントを守り続ける。だから君にも協力してもらいたいんだ。王子の、妻として」
「アスラン・・」
何と言えばいいのか分からなくて、カガリはアスランの名を呼んだ。
それに呼応するかのように、アスランはカガリの方に向き直り、手を取ると、その甲に口付けた
「あ・・」
「俺のことも・・少しずつでいい・・どうか・・」
アスランは唇を、カガリの手の甲から腕へと滑らせた。
「慕っては、くれないだろうか・・」
「う・・」
カガリはどうしたらいいのか、何を言ったらいいのか、分からなかった。
ただ、アスランの唇が触れたところが異常に熱い。
(もう・・駄目・・)
そう思った時、アスランはそっとカガリの腕を放した。
「あ・・」
「すまない」
潤んだ琥珀の瞳を見て、アスランが目を伏せた。
「戻ろうか」
二人を包む空気を断ち切るようにそう言うと、アスランはカガリを再び幹に括り付けてある馬の元へと連れて行った。
(違うんだ・・アスラン)
抱き上げて馬に乗せてもらいながら、カガリは心のなかで何度もそう繰り返していた。
(嫌だったからじゃないんだ・・)
アスランは誤解している。
さっきカガリが瞳いっぱいに涙を溜めていたのは、アスランがカガリに触れたのが嫌だったのだと。
(嫌だったんじゃなくて・・)
怖かったのだ。
胸が高鳴って、頬が熱くなって、自分の体温が上昇して。
あのまま触れられていたら、今まで見たことのない、自分でさえ知らないような自分になってしまいそうな気がして。
アスランを誤解させてしまったのが悲しくて、違うのだと声に出して言いたいけれど、カガリにその勇気はなかった。
「カガリ、大丈夫だよ。俺がしっかり捕まえてるから」
カガリの落ち込みを、馬に乗ることが怖いと解釈したらしい。
安心させるように言うと、カガリを抱きこむ腕に力を込めた。
(アスラン・・)
アスランの身体を背中全体で感じて、カガリはその温かさに胸がいっぱいになってしまった。
この暖かくて優しい人を、傷つけたくないと心の底から思った。
「なあ・・」
「ん?」
「また・・ここに連れてきてくれるか・・今日みたいに、護衛をつけないで」
それがカガリの精一杯だった。
「カガリ・・」
「二人で」とも言えなかったけれど、それでもアスランの驚きが背中越しに伝わってくる。
(どうしよう・・恥ずかしい・・)
一瞬の沈黙でも、カガリは居たたまれなかった。
逃げ出したくなるくらい恥ずかしかったけれど。
「うん・・もちろん。カガリにはプラントをたくさん知ってもらいたいから」
アスランが微笑んだのが、空気の振動で伝わってきた。
「ありがとう・・カガリ」
アスランがカガリを連れてきたのは、小高い丘の頂上だった。
腰を抱えてカガリを馬から降ろすと、アスランはカガリを丘の更に奥へと誘った。
生い茂る木々の間を潜ると、緑一色だった景色が一気に開けて。
「うわあ・・」
眼下に広がるプラントの街並み。
その美しく整備された景色に、カガリは感嘆の声をあげた。
丘の切り立った頂上からはディゼンベルはおろか、遙か遠くの山々まで見渡せた。
「あれが、俺たちの王宮だ」
「本当だ。ここからだと随分小さく見えるな」
カガリの横で、アスランは眼下に広がる景色の解説を始めた。
「あそこに流れてる川が、ヴェサリウス川。ディゼンベルの生命線で、何百年もここに住まう人々を見守ってきた川だ。その東は市街地。建物が密集しているだろう」
アスランが指差す先を辿れば、確かに細長い川が見えて、その東側には他よりも圧倒的に建物が密集している場所があった。
プラントはただの軍事大国だと思っていたけど、こうして見ると街は自然と共存し、とても美しい。
(オーブとは全く違うけど、プラントも・・)
「綺麗な国だろう、プラントは」
今まさに思っていたことをアスランに言われて、カガリは思わず横にいる彼を見上げた。
「俺は、ここから見るディゼンベルの景色が一番好きなんだ」
アスランはカガリに優しく微笑むと、視線を前へと戻した。
「この景色を見ると、この街で、この国で暮らす人々を守りたい、争いをこの世から無くしたいって思う」
「アスラン・・」
「君はオーブで生まれ育って、オーブを愛しているのは分かっている。当然のことだ。だけど、少しずつでいい、プラントのことも、愛してはくれないだろうか」
アスランの言葉に、カガリは僅かに目を見開いた。
「俺は君を一生大切にする。愛すると誓うよ。それと同時に、俺は王子として、プラントを守り続ける。だから君にも協力してもらいたいんだ。王子の、妻として」
「アスラン・・」
何と言えばいいのか分からなくて、カガリはアスランの名を呼んだ。
それに呼応するかのように、アスランはカガリの方に向き直り、手を取ると、その甲に口付けた
「あ・・」
「俺のことも・・少しずつでいい・・どうか・・」
アスランは唇を、カガリの手の甲から腕へと滑らせた。
「慕っては、くれないだろうか・・」
「う・・」
カガリはどうしたらいいのか、何を言ったらいいのか、分からなかった。
ただ、アスランの唇が触れたところが異常に熱い。
(もう・・駄目・・)
そう思った時、アスランはそっとカガリの腕を放した。
「あ・・」
「すまない」
潤んだ琥珀の瞳を見て、アスランが目を伏せた。
「戻ろうか」
二人を包む空気を断ち切るようにそう言うと、アスランはカガリを再び幹に括り付けてある馬の元へと連れて行った。
(違うんだ・・アスラン)
抱き上げて馬に乗せてもらいながら、カガリは心のなかで何度もそう繰り返していた。
(嫌だったからじゃないんだ・・)
アスランは誤解している。
さっきカガリが瞳いっぱいに涙を溜めていたのは、アスランがカガリに触れたのが嫌だったのだと。
(嫌だったんじゃなくて・・)
怖かったのだ。
胸が高鳴って、頬が熱くなって、自分の体温が上昇して。
あのまま触れられていたら、今まで見たことのない、自分でさえ知らないような自分になってしまいそうな気がして。
アスランを誤解させてしまったのが悲しくて、違うのだと声に出して言いたいけれど、カガリにその勇気はなかった。
「カガリ、大丈夫だよ。俺がしっかり捕まえてるから」
カガリの落ち込みを、馬に乗ることが怖いと解釈したらしい。
安心させるように言うと、カガリを抱きこむ腕に力を込めた。
(アスラン・・)
アスランの身体を背中全体で感じて、カガリはその温かさに胸がいっぱいになってしまった。
この暖かくて優しい人を、傷つけたくないと心の底から思った。
「なあ・・」
「ん?」
「また・・ここに連れてきてくれるか・・今日みたいに、護衛をつけないで」
それがカガリの精一杯だった。
「カガリ・・」
「二人で」とも言えなかったけれど、それでもアスランの驚きが背中越しに伝わってくる。
(どうしよう・・恥ずかしい・・)
一瞬の沈黙でも、カガリは居たたまれなかった。
逃げ出したくなるくらい恥ずかしかったけれど。
「うん・・もちろん。カガリにはプラントをたくさん知ってもらいたいから」
アスランが微笑んだのが、空気の振動で伝わってきた。
「ありがとう・・カガリ」