本編
青く輝く南の海に浮かぶ、一つの島があった。
島のほとんどが火山から成るその国はオーブといい、近隣諸国から神の国と呼ばれていた。
オーブを治めるアスハ家は火山を司る女神、ハウメアの血を引くと信じられ、その化身として国内外から崇め奉られている。
近隣諸国は神の国オーブ、また女神の一族であるアスハ家に忠誠を誓う証として、海に囲まれた宝石のように美しく豊かなこの国を、自国の武力によって守っていた。
国を成してから数百年、争いを憎み武力を持たないオーブが他国に侵略されず、南海の宝珠として君臨し続けることができたのは、そのおかげだった。
しかし自らは神の国の民であるという選民意識を持つオーブ人たちは、自国を防衛してくれる近隣諸国の兵たちに感謝することはなく、ただ血に穢れた野蛮な人々だと見下していた。
近隣諸国もオーブが自分たちをどう見ているか分からぬ程愚かではなく、何故オーブの為に血を流している自分たちが、彼らに蔑まれなければならないのかと嘆き憤っていた。
そんな憤りも、アスハやオーブへの絶対的な忠誠心がある時代ならば皆飲み込んでいたのだが、時代が進むとともに、年々オーブの威光は弱まっていき、近年ではそれはより一層顕著だった。
「お父様!」
穏やかな朝日が降り注ぐなか、悲痛な叫び声が城の広間に響き渡った。
人々の叫び声や走り回る足音、また皿の割れる音が鳴り響き、広間は騒然となった。
「ちっくしょう!」
王の背後で警備をしていた黒髪の少年が弓を引き、美しくも鋭い放物線を描いた矢がビュウと空気を切り裂いて、剣を手に王に襲いかかろうとする男の胸を貫いた。
矢に刺された男はしばらく硬直したままだったが、やがてブルブルと震え出したかと思うと吐血し、その場に倒れこんだ。