第一夜
――――こんな風にこの日を迎えるだなんて、思いもしなかった
【結婚前夜 第二部】
君の姿を見ただけで、涙腺が緩む
いい年して、情けないと思う
でも、仕方ないんだ
だってもう、俺と君の間に、分厚いガラスはないん
君にやっと、触れることが出来る
三十年の時を経て――――
アスランとキラはベッドサイドの椅子に座って、すやすやと眠るカガリを見つめていた。
窓から見える5月の空はどこまでも高く澄んで、少しだけ開けた窓からは爽やかな風が吹き込み、真っ白なカーテンを揺らしている。
「こうしていると、昔を思い出すね」
「昔?」
窓から吹き込む風がキラとアスラン、そしてカガリの前髪を揺らした。
「三十年前。カガリが事故にあって、もう助からないって知った日も、こうして二人でカガリを見つめていたね」
「ああ・・・」
カガリをコールドスリープさせると決めた、あの日。
三十年前の、遠い昔。
けれでも、アスランはあの日のことを、昨日のことのように思い出せる。
あの日から、アスランの果ての見えない辛く苦しい日々が始まったのだから。
だけど、とアスランは口元を緩めた。
「あの日とは、実際真逆だな」
あの日は絶望に包まれてキラと二人、カガリを見つめていたが。
今はそうではない。
アスランは今にも駆け出してしまいそうなくらい逸る気持ちを抑えきれない。
「そうだね。あと違うのは、僕たちが少し老け込んだくらいことかな?」
くすくすと楽しそうにキラが笑う。
二人は今ベッドの横で、カガリの目覚めを待っていた。
当時、手術することのできなかった臓器の損傷が、三十年の時を経て、二日前に手術を施されたのだ。
天才と言われる外科医に施された手術の結果は、成功。
損傷による後遺症もない。
もう少しで薬が切れたカガリが目覚めるのを、アスランあは今か今かと心待ちにしていた。