結婚前夜【エピローグ②】
名前を呼ばれて、少女は立ち止まった。
振り返れば自分よりも数歳下の女の子を母親らしき女性が支えている。
「カガリ!急に走っちゃダメっていったでしょ!転んじゃうわよ」
その親子を見つめていると、少女の母親がそっと少女の髪の毛を撫でた。
「カガリ、どうしたの?」
「おかあさん、あのこもカガリ」
「そうね」
母親は少し先の親子に視線を向けた。
女の子は娘よりも三歳くらい下だろうか。
その親子の様子が数年前の自分たちを見るようで、何だか懐かしかった。
「ようねんがっこうでもカガリたくさんいるんだよ!カガリのクラスにもよにんいるの」
少女は指を四本立てて、母親の顔の前でぶんぶん振った。
「カガリなんでこんなにいっぱいいるの?」
「それはね、ザラ艦長の大切な人の名前だからよ」
「ザラかんちょう?」
「学校で習ったでしょ?百年前にこの惑星に辿りついた移民船の艦長さんよ」
少女はぱっと顔を輝かせた。
「しってるう!学校でならったよ!ファーストをつくったひとでしょ!」
「あら、よく知ってるわね」
少女の笑顔が可愛くて、母親は微笑んだ。
「ザラ艦長は遠い遠い宇宙の向こうから、たった一隻の艦で三十年かけてこの惑星にきたの。その艦に乗ってた人たちは皆、この国のご先祖様なのよ」
「カガリのひいおばあちゃんものってたんだよね!ぷらんとってところからひっこししてきたんでしょ」
「そうよ。ママのおばあちゃん言ってたわ。ザラ艦長は本当に素晴らしい人だったって。皆から尊敬され頼られて、あの人がいたからなんとかファーストに辿りつくことができたんですって。ファーストに着いて初代大統領になってから三年後に亡くなってしまったときには国中が悲しみに暮れたそうよ」
「そのザラかんちょうのすきなひとがカガリだったの?」
「そう。あまり多くは語られなかったらしいけど、どんなときでも写真を持ち歩いていたらしいわ。だからファーストの人たちはザラ艦長に敬意を表す為に女の子にはカガリと名付ける人が多いのよ」
そっかあと頷いた少女だったが、何か気が付いたのか小首を傾げた。
「ママ、そのひとはファーストにこれなかったの?」
「ええ。ファーストに行くには色々条件があったらしくて、レイディ・カガリはプラントに残ったのよ。ザラ艦長は大切な人と別れなくてはならないにもかかわらず、皆の為に艦長さんになったの。そうして離れ離れになっても、レイディ・カガリのことを想い続けたのよ」
「そうなんだ・・・かわいそうだね・・・」
俯いた少女の顔を、母親が覗き込むんだ。
「だからいつか二人が出会えるようにカガリも祈ってあげようね」
少女は途端に顔を明るくさせた。
「うん!おんなじおなまえだから、わたしがおいのりすればきっととどくよ」
「そうだね。じゃあお家にかえろっか」
「うん!」
膝をおり少女の目線に合わせていた母親が立ち上がり、少女の手を握る。
夕日に照らされた親子の影が緑の多い公園に伸びる。
惑星ファーストの平和な夕暮れ時だった。
結婚前夜【FIN】
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