ご利用は計画的に






翌朝、カガリが目を覚ますと、アスランの姿は既になかった。
広い寝室は冷たい空気で満ちており、数時間前の激しい情事が嘘のようだ。
気怠げにベッドボードの時計を見ると、あと三十分でアスハ邸に迎えのハイヤーが来る時間で、カガリは浅いため息をつく。
ホテルからアスハ邸までは車で二十分程度の距離であり、いつものカガリだったら、飛び起きて慌ただしく支度をしてホテルを飛び出すのだが、今はそんな気力も体力も無い。
身体が鉛のように重く、節々が痛かった。
眠りについたのだって、明け方近くなのだ。
のろのろと身体を起こすと、カガリはシャワールームに向かった。
熱いシャワーを浴び、思考がはっきりしてくると、迎えのハイヤーは直接ホテルに呼びつけることに決めた。
同乗するシンから鋭い追及が飛ぶだろうが仕方がない。
アスランとの関係が解消された。
あれだけ濃密な夜を過ごしたというのに、ホテルにたった一人残された今の状況は、その事実をはっきりとカガリに実感させた。
それに昨晩のことを濃密といって表現していいのか、今までのアスランのやり方とは違う、あれは圧倒的な支配だった。
熱い湯を浴びているにもかかわらず、ぞくりと寒気がして、カガリは身を縮こませる。
昨夜のことは、アスランの最後の愉しみだったのだろう。
彼も抱き納めと思い、カガリを思い切り好きに抱いたのだからそれでいい。
あれで関係が切れるのなら、安いものだ。
バスルームから出て、シンにアスハ邸ではなく、都心部のホテルに迎えにくるよう連絡をすると、カガリはソファに座り、ため息をついた。
全て、終わったのだ。











そうして日常を取り戻し、二ヶ月程経ったときだった。
オーブ行政府から直々に受注する開発事業の草案を目にし、カガリは一瞬息を止めた。
オーブを担う巨大企業であるアスハは、行政府から委託という形で仕事を受注することも多い。
今回もそんな仕事の一つなのだが。

「あの、共同出資ってどういうことでしょうか」

行政府の応接室でカガリの正面に座る役人は、その質問を待っていたかのように頷いた。

「ええ、実はオーブも来年、他国の外貨流入規制を緩和する法案が決議される予定でして、それを見越して今から外国の資本を少しずつ参入させていこうと上は考えているんです」

そういった話は毎年閣議に上がっていたが、いよいよ来年本格的に始動することになったらしい。
そうなったら、オーブの経済界も大きく動くだろう。
それがアスハにどんな影響をもたらすか、瞬時に考えを巡らせながらかも、カガリの心は書面に記載されている名前に囚われていた。

「それで、まずはアスハとプラントのザラで共同開発をしろということですか」

「ええ。ザラはプラントでこの産業においては一流企業といわれています。オーブのアスハと共同研究して頂ければ素晴らしい成果があがるかと上は期待しているのですよ」

行政府からの業務委託を断ることはできない。
それに彼の言うとおり、これは非常に魅力的な仕事だった。
・・・・・・仕事だけでみれば。

「ザラのほうも大変乗り気でしてね、ザラの取締役自らプロジェクトチームの責任者になって頂けるようなんですよ」

書面にあるアスラン・ザラの名前。
ただの文字の羅列なのに、カガリは何故かひどく恐ろしい気がした。
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