ご利用は計画的に




思いがけない言葉に二人の間を流れる空気の流れが一瞬止まり、アスランはカガリの顏を直視した後、ゆっくりと口を開いた。

「何で」

その顏はまさに呆然と表現するにふさわしく、カガリの胸がきりきりと引き絞られるが、あのパーティーの光景がカガリの決心を後押ししてくれた。

「人様に説明できない融資は、やっぱり嫌なんだ」

ここまできて今更だが、感情直下型の自分には最もらしい理由だろうと、カガリは自画自賛した。
確かに正義感の強いカガリは、初めこの取引に強い抵抗感じたが、今カガリが本当に嫌だと思うのは、アスランに惹かれてしまうことだった。
こんな取引を持ちかけた彼の真意はいまだに分からないが、彼が美しく着飾った女性に囲まれている光景には何の違和感も無く、彼は将来こういった女性を選ぶのだとカガリにまざまざと実感させたのだ。
アスランが自分を抱くのは、ほんの気まぐれ。
たまには毛色の変わった女を抱きたくなっただけなのだろう。
それともアスハを継ぐカガリを抱くことで、優越感を感じているのか。
どちらにしろ、アスランにとってはほんのひと時の遊びにすぎない。
そんな状態でカガリがアスランに惹かれるなど、あってはならないことだ。
パーティーで感じた胸の痛みを思い出す。
苦しんで、目も当てられない悲惨な状況になるのは目に見えていた。

「幸い、お前のおかげでアスハの業績も持ち直し、また伸び始めている。お前から借りた融資は来期に全額返せるだろう」

「馬鹿な。立ち直ってきているとはいえ、まだまだ予断を許さない状況だろう。今融資を打ち切ったら、またアスハは崩れるぞ」

「それでも最低限のところまでは回復した。他社もどん底から這い上がったアスハを見ている。もしまた融資を持ちかけることがあったら、答えは以前と違うかもしれない」

「他社に持ちかけるくらいなら、このまま俺からの融資を受け続ければいいじゃないか」

ぎりりと、アスランがカガリの手首を掴み、カガリは顏をしかめた。

「言っただろう。こんな裏取引は嫌だと。私の理念に反している」

「正々堂々アスハに融資する会社があると思うか」

「見つけてみせる。サハク達に土下座でもなんでもしてやるさ。とにかくもう、こんな取引は止めにしたいんだっ」

カガリの心からの叫びだった。
もうこれ以上アスランに抱かれるのは嫌だった。
アスランの優しい心と体に触れるのが怖くて堪らない。
そのためには関係を断ち切ることしか、カガリには方法がなかったのだ。

「だから今日で最後にしてくれ。お前には本当に感謝している。先週融資を受けたから、今日はその分だ。お前の好きにしろ」

そう言ってカガリは目を閉じ、顔を横に背けた。
アスランの顏を見たら、決心が揺らぐ。
カガリは自分の殻に閉じこもり、最後の交わりに備えようとしたのだが、その態度がアスランを突き放したように見えるなどとは思いもしなかった。

「そんなに俺に抱かれるのが嫌か」

ぞっとするような低い声に驚いて、カガリが目を開けると同時に、唇を荒々しく塞がれた。

「ううっ…、んっ」

乱暴な口づけと一緒に飛び込んできたのは怒りを孕んだエメラルドの瞳。
こんな恐ろしいアスランは初めてで、カガリの全身が総毛だった。
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