ご利用は計画的に

美しい女性たちに囲まれていたアスランの姿が、頭から離れなかった。
あの日はカガリも化粧をしドレスを身に纏っていたが、彼女たちの匂うような女性らしさには到底敵わないと思った。
それは日ごろから華やかで明るい日々を過ごしていないと醸し出せない、根本的な女性らしさだった。
当たり前に女性としての生活を謳歌している彼女達を前に、日々男性社会で必死に戦っている自分が、いかに粗野で色気のないことか、カガリは思い知った。
そんなことを今まで気にしたことはなかったのに、カガリは自分の女性としての特異さを思い知り、打ちのめされていた。
アスランには男みたいな自分ではなくて、砂糖菓子のような女性が似合うと、まざまざと見せつけられてしまったのだ。
パーティーで見た光景は尾を引き、カガリは重たい心を引きずったまま、プラントの例のホテルへと向かった。




「カガリ!」

カガリを部屋に迎えたアスランは嬉しそうに笑った。
その笑顔を見るのが辛くて、カガリは下を向いて、足早に見慣れた部屋の中に入る。

「道が混んでいて少し遅れた。すまない」

「構わない。それにしても、経営会議は再来週だろう?大丈夫だったのか」

「ああ」

この時期はどの企業でも来年度の予算を決める経営会議が控えており、今月の密会はそれが終わってからでも構わないとアスランは言ったのだが、カガリはそれを断り、予定通りアスランが居室にしているホテルを訪れたのだ。

「それにしても、この間は驚いたな」

荷物を置き、ソファに座ったカガリに飲み物を渡すと、アスランもその隣に腰を下ろした。

「まさか、サハク家のパーティーでカガリと偶然会うなんてな」

カガリにとっては苦い思い出のパーティーだが、アスランにとってはそうで無いらしく、彼の表情や口調からは何の後ろめたさも感じられなかった。
それどころか、アスランはうっとりと緑色の瞳を細める。

「ドレスを着てるカガリ、初めて見た。ああいう恰好も似合うんだな」

女性たちに囲まれていたことについては一切触れず、まるで無かったことのようにカガリの髪を梳くアスランに、身体だけの女には弁解する必要もないということかとカガリの胸には暗い感情が膨らんでいく。

「いつものズボンも君らしいが、ワンピースとか、そういう恰好をした君を連れて歩くのも楽しいだろうな」

「それは契約違反だ」

思いがけず鋭い声が出て、アスランだけでなくカガリまでも息を止めた。
気まずい空気が一瞬二人の間に流れる。

「そう、だよな」

すぐにアスランがふっと吐息をつくように笑った。
その顏が寂しげで、カガリの胸がきりりと痛む。
今日の自分がアスランに対しどこかよそよそしいと、自分でも感じていたカガリは、アスランにそう指摘されるのではと恐れていたが、気づいていないのか彼は特に何も言わなかった。

「じゃあ早速、ベッドに連れていってもいいか」

「ああ」

頷くと、ひょいと身体が持ち上げられる。
こうしてベッドに運ばれるのは、初めてこの部屋にきて身体を重ねた日からずっと同じだった。
重いからやめろと言ってもアスランは聞き入れず、カガリは軽いからもっと肉をつけた方がいいと真顔で言うので、いつしかカガリは諦め、大人しくアスランに運ばれるようになった。
しかし、それも今日で最後なのだ。
とさり、と丁寧にベッドの上に横たえられると、アスランがそのまま覆いかぶさってくる。

「カガリ」

至近距離にアスランの秀麗な顏があった。

「体調はもういいのか」

「ああ。今日は大丈夫だ」

分かったという風に微笑んだアスランに、カガリは口を開きかけたが、それよりも先にアスランがカガリの唇を塞いだ。

「ん……っ」

口づけはすぐに深くなり、咥内を愛撫しながら、アスランの大きな手がはカガリの頬や頭を撫でてくる。
その手つきが優しくて、カガリの胸は熱くなるが、流されてはいけないと懸命に己を叱咤した。

「待て、アスラン」

口づけを解き、呼吸を乱したまま首筋に向かおうとしたアスランの肩を、カガリは押しとどめた。
欲望を押しとどめられたアスランだったが、律儀にカガリの首筋から顏を上げた。

「何?」

「あのな、アスラン」

数回息を吐き呼吸を整えてから、カガリはアスランの顏をそっと見上げた。

「契約はこれで最後にしてほしいんだ」
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