ご利用は計画的に


オーブの中心街にそびえたつ高層ビルの17階、役員会議室は荒れていた。
喚き散らしたり、声を荒げる者がいる一方、諦めたように口を閉ざしている者もいる。
反応や態度が違っても、皆が直面している危機は同じだ。

まさか、こんなことになるなんて。

黒皮の椅子が並べられた長テーブルの一番奥に座るカガリは、ぎゅっと拳を握りしめた。

いや、分かってはいた。

ここ数年、赤字が膨れ上がり、経営がどんどん苦しくなっていくのを肌で感じていた。
急速に傾く社を何とかしなければと、必死で打開策を探し、様々な取組を行った。
それでも、下落は止められなかった。

オーブが誇る一流企業アスハ・コーポレーションは今、破産寸前にまで追い込まれていた。

危機に直面した役員達はお前のせいだ、あの投資がよくなかったと互いに罵りあっている。
その光景が耐えられなくて、カガリは両手を机に叩きつけた。

「落ち着け、犯人捜しをしたってしょうがないだろう!」

途端に会議室の視線が、カガリに集まる。
その視線は、彼らが本当は誰を犯人だと思っているか物語っていた。

「今は今後のことを考えるのが先だろう!」

「もう、うちに助けてくれるところなんてありませんよ」

カガリの言葉に、初老の役員が下を向いて吐き捨てた。

「そんなことを言っている暇があるなら、融資してくれる先を探せ!」

カガリの声がむなしく会議室に響き、年若い経営者に対し呆れたような空気が満ちる。

「……そうはいいましてもね、アスハ社長」

苦笑を浮かべ、駄々子を宥めるような物言いで、カガリの斜め前に座るユウナが言った。

「もうどうにもなりませんよ。最後まで助けてくれた企業にもとうとう切られてしまったわけですから」

「……っ」

睨み付けるカガリを物ともせず、ユウナは続けた。

「もはや、破産申告をして事業再建の申し立てをするしかありません。傷は浅い方がいい」

「そんな……っ、駄目だ、破産申告なんて!」

一体何千人の社員の希望退職を募らなければならないのか。

「会社はあなたのおもちゃでは無い。変なプライドは捨てなさい!」

ユウナに鋭く言われ、カガリは思わず口を噤んだ。

「それとも……、社長にはどこか融資してくれる当てがあるのですか?」

あるはずがないのを知っていながら、ユウナはわざと尋ねる。

「それは……」

応えられず口ごもるカガリに、ユウナは勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

「来月、破産申告と事業再建の申し入れをします。社長にはその説明を行う株主総会にて退任して頂きます」

「……っ」

責任を取る形での退任。
分かっている、仕方のないことだ。
けれど、心が拒絶する。
脳裏に最後まで自社の行く先を案じ、若くして逝った父の姿が浮かんだ。

(お父様……)

お父様の大切なアスハ・コーポレーションが危機に陥って、崩壊寸前なのです。
どうか助けて下さい。

そう縋りたくても、父はもうどこにもいない。
カガリはたった一人、重厚な役員会議室で悪意に耐えながら、立っているしかないのだった。
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