夜明け

俺が一番欲しかったものは何だろう。

何のために戦っていたのだろう。

議長のもとでザフトの赤をまとって、身を削るようにして戦って、でも終戦後俺が得たものは何もなく、逆に喪失感だけが残った。

心にぽっかりと空いた黒くて深い穴はザフトで俺が歩んできた歴史のようだ。
心も体も犠牲にしてがむしゃらに突き進んだ俺の戦いは平和はおろか何も産み出さなかった。
数えきれない程の血を浴びて、それでも平和のために必死に歩んできた俺の戦いは無意味だったんだ。

俺は、これから、どうすればいい?


「シン、一週間後にプラントに戻るわよ」
オーブに降りて三日たった。
けれど、今まで起きたことが現実だと思えなくて。今も自分がオーブにいるのだという実感がなかった。
自分にとって絶対的な存在だったデュランダル議長をレイが撃って、そのレイももういないなんて、今でも信じられない。
全て幻のような気がした。宇宙での戦いも、俺の存在も。

「いつまでもオーブにいるわけにはいかないんだからね」
ルナマリアが反応しないシンの顔を覗き込む。
シン達は宇宙からオーブに降りて、今はオーブの貴賓館に滞在していた。
一つの戦いが終わり世界は今混乱している。そんなときだからこそ、ザフトであるシン達は一刻も早くプラントに帰らなければならなかった。

「ああ、分かってる」

だけど、またザフトに戻って俺はどうすればいいんだ?
また、戦わなければならないのだろうか。

「シン、しっかりしなよ。確かに辛いけど私たちが一生懸命頑張っていくことが、弔いだと思うの・・」

ザフトをアスランと脱走してからずっとAAと行動を共にしていたメイリンもプラントに帰る決意をしていた。

「ああ、分かってる」

「シン、どこ行くのよ?」

「ちょっと散歩。夜には帰ってくるから」

そう言って、何か言いたげなルナマリアとメイリンに背を向けて部屋の扉をしめた。




〈一生懸命頑張っていくことが、弔いだと思うの〉

シンはオーブの砂浜に座って海も見ていた。
夕暮れときの海はオレンジ色の光を反射していた。
あと一時間もすれば空の濃紺に飲み込まれ、空との境目は分からなくなるだろう。

一生懸命頑張っていくことが弔い。
ただの気休め、慰めの言葉に過ぎないかもしれないけど、確かにそうなのだろう。
死んでしまえば、何もできないのだから。
だから自分はその通り頑張っていかなければならない。

だけど・・・・・

「何を・・?」

何を頑張ればいいのだ?

MSに乗って破壊と殺戮を繰り返してきた俺は、これから何を頑張ればいいのだろうか。

シンは自分がどうすればいいのか分からなかった。
自分の導き手だった議長もレイももういないのだ。

「オーブの夕暮れは綺麗だな」

後ろからいきなり声が聞こえた。
聞き覚えのあるその声の主が頭に浮かんできて、でもまさかと驚いて振り向くと、やはり予想通りの人物がそこにいた。

アスハ。

カガリ・ユラ・アスハ。

俺と目が合うとアスハはふっと儚げに笑うと、ゆっくり俺の隣にやってきた。
何を考えているのだろう、アスハは。なぜ俺のところにきたんだろう。

以前だったら感情のままに言葉を浴びせていたけれど、思考も感情も脱力してしまったシンはぼんやりとカガリを見ていた。

潮風でなびく金髪がきらめいて、ふとシンの脳裏に守れなかった少女が浮かんできたときだった。

「オーブで、働かないか?」

カガリの視線は、まっすぐとオレンジの水平線に向けられていた。


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