夜明け
嵐のようだった夜が明けた。
シンは公園のベンチにいた。
カガリの滞在先のホテルには戻れなかった。
ホテルだけじゃない、もうカガリの傍にもいられない。
オーブも出ることになるだろう。
自分はそれだけのことをしたのだから。
アスランに殴られた頬が痛む。
殴られた直後は熱しか感じなかったけれど、時間が経つにつれて熱は痛みへと変わっていった。
あの後のアスランとカガリがどうなったのか想像する。
自分を殴ったあと、間違いなくアスランはカガリのもとに向かっただろう。
そうして傷ついたカガリを優しく抱きしめたのだろうか。
そう思うとシンの胸がナイフでえぐられるように鋭く痛む。
だけど自業自得なのだ。
自分の欲望を抑えきれず、カガリの尊厳を踏みにじったのだから。
きっと、二人は自分を許さない。
カガリに憎まれるのも死んでしまいたい程辛いけれど、アスランにも―――。
敬慕、劣等、尊敬、苛立ち。
アスランに対しては色んな想いがありそれを一言で言い表すことはできないが、間違いなくシンにとってアスランは特別な人なのだ。
憎しみに支配され自分でもどうしていいのか分からず、ただ闇雲に戦っていた自分を救おうとしてくれた。
そんなアスランに憎まれ軽蔑されるのは、消えてしまいたい程辛い。
シンは後悔と絶望と孤独のなかにいた。
これからどうすればいいのだろう。
ぼんやりとそんなことを思ったとき、ピピピと電子音がシンのポケットから鳴った。
護衛として持ち歩いている仕事用の携帯電話だ。
カガリは今日も朝から会談があり、護衛として付き添うはずだったシンがホテルの部屋にいないことに気付いた秘書官が連絡してきたのだろうか。
それとも、お前は首だという連絡か。
そう自嘲して、発信者も確認せず通話ボタンを押した。
「シン・アスカで・・」
「おまえ!!このバカっ!!!今どこにいるんだよ!!」
その声は、シンが一番会いたいと、また一番会いたくないと思っていた人のものだった。
カガリとアスランがあの夜、どうなったかは知らない。
公園からホテルに戻るとVIP用のロビーで待ち構えていたカガリに殴られた。
もう既に真っ赤になった頬に更なる追い討ちだったけれど、あれほどのことをしでかした自分への罰がこんなもので済むわけがない。
だけどシンはどんな処分が下されるのかよりも、カガリからの非難の言葉が何より怖かった。
「もう二度とするなよ。あんなこと」
けれどカガリはそう言って琥珀の瞳でシンを睨んだだけだった。
「えっ・・」
「ほら行くぞ!車を待たせているんだ」
カガリはすたすたと出入り口に向かう。
「だって・・俺、昨日・・」
「だから二度とするなって言っただろ!代表が護衛をつけずに会談場所に行けるか!早くしろ
よ」
カガリはきっちりと首長服を着て、昨日ボロボロになってベッドで気を失っていたのが嘘のようだ。
でも、嘘じゃないのはシンが一番よく知っている。
自分は確かにカガリを強姦した。
それなのに。
<許して・・くれるのか?>
シンの瞳の奥が熱くなるのを感じた。
<あんなことをした俺を・・まだ信じてくれるのか>
それは地の女神と称されるように、すべてのものを温かく包み込むカガリの強さなのだろうか。
<俺は、カガリを守る>
カガリの信頼に自分はこたえたい。
それに自分の想いが報われなくても、想い続けるだけなら許されるはずだ。
<一生懸命生きることが弔いだと思うの>
ふいにメイリンの言葉を思い出した。
レイや散って行った大勢の仲間たちの顔が浮かんでくる。
今まで思い出す彼らの顏はどこか心配そうな顔で自分を見ていた。
憎しみと怒りを原動力に戦ってきた自分が、これからどんな風に生きていくのか案じていたのだろうか。
確かに、足元が崩れてどうしていいか分からなかった。
でも、今は・・・
シンは薄くなっていく戦友たちの残像に語りかける。
やっと生きていく場所を見つけたよ。
ちゃんと自分の意思で決めたんだ。
だから、もう大丈夫だ。
お前たちのぶんも頑張るから。
「カガリ!」
シンは自分の道を照らす篝火のもとへ向かった。
シンは公園のベンチにいた。
カガリの滞在先のホテルには戻れなかった。
ホテルだけじゃない、もうカガリの傍にもいられない。
オーブも出ることになるだろう。
自分はそれだけのことをしたのだから。
アスランに殴られた頬が痛む。
殴られた直後は熱しか感じなかったけれど、時間が経つにつれて熱は痛みへと変わっていった。
あの後のアスランとカガリがどうなったのか想像する。
自分を殴ったあと、間違いなくアスランはカガリのもとに向かっただろう。
そうして傷ついたカガリを優しく抱きしめたのだろうか。
そう思うとシンの胸がナイフでえぐられるように鋭く痛む。
だけど自業自得なのだ。
自分の欲望を抑えきれず、カガリの尊厳を踏みにじったのだから。
きっと、二人は自分を許さない。
カガリに憎まれるのも死んでしまいたい程辛いけれど、アスランにも―――。
敬慕、劣等、尊敬、苛立ち。
アスランに対しては色んな想いがありそれを一言で言い表すことはできないが、間違いなくシンにとってアスランは特別な人なのだ。
憎しみに支配され自分でもどうしていいのか分からず、ただ闇雲に戦っていた自分を救おうとしてくれた。
そんなアスランに憎まれ軽蔑されるのは、消えてしまいたい程辛い。
シンは後悔と絶望と孤独のなかにいた。
これからどうすればいいのだろう。
ぼんやりとそんなことを思ったとき、ピピピと電子音がシンのポケットから鳴った。
護衛として持ち歩いている仕事用の携帯電話だ。
カガリは今日も朝から会談があり、護衛として付き添うはずだったシンがホテルの部屋にいないことに気付いた秘書官が連絡してきたのだろうか。
それとも、お前は首だという連絡か。
そう自嘲して、発信者も確認せず通話ボタンを押した。
「シン・アスカで・・」
「おまえ!!このバカっ!!!今どこにいるんだよ!!」
その声は、シンが一番会いたいと、また一番会いたくないと思っていた人のものだった。
カガリとアスランがあの夜、どうなったかは知らない。
公園からホテルに戻るとVIP用のロビーで待ち構えていたカガリに殴られた。
もう既に真っ赤になった頬に更なる追い討ちだったけれど、あれほどのことをしでかした自分への罰がこんなもので済むわけがない。
だけどシンはどんな処分が下されるのかよりも、カガリからの非難の言葉が何より怖かった。
「もう二度とするなよ。あんなこと」
けれどカガリはそう言って琥珀の瞳でシンを睨んだだけだった。
「えっ・・」
「ほら行くぞ!車を待たせているんだ」
カガリはすたすたと出入り口に向かう。
「だって・・俺、昨日・・」
「だから二度とするなって言っただろ!代表が護衛をつけずに会談場所に行けるか!早くしろ
よ」
カガリはきっちりと首長服を着て、昨日ボロボロになってベッドで気を失っていたのが嘘のようだ。
でも、嘘じゃないのはシンが一番よく知っている。
自分は確かにカガリを強姦した。
それなのに。
<許して・・くれるのか?>
シンの瞳の奥が熱くなるのを感じた。
<あんなことをした俺を・・まだ信じてくれるのか>
それは地の女神と称されるように、すべてのものを温かく包み込むカガリの強さなのだろうか。
<俺は、カガリを守る>
カガリの信頼に自分はこたえたい。
それに自分の想いが報われなくても、想い続けるだけなら許されるはずだ。
<一生懸命生きることが弔いだと思うの>
ふいにメイリンの言葉を思い出した。
レイや散って行った大勢の仲間たちの顔が浮かんでくる。
今まで思い出す彼らの顏はどこか心配そうな顔で自分を見ていた。
憎しみと怒りを原動力に戦ってきた自分が、これからどんな風に生きていくのか案じていたのだろうか。
確かに、足元が崩れてどうしていいか分からなかった。
でも、今は・・・
シンは薄くなっていく戦友たちの残像に語りかける。
やっと生きていく場所を見つけたよ。
ちゃんと自分の意思で決めたんだ。
だから、もう大丈夫だ。
お前たちのぶんも頑張るから。
「カガリ!」
シンは自分の道を照らす篝火のもとへ向かった。