アスラン・ザラと秘密の乙女

「カガリ、どこに行くの?」

授業が終わって、秘密の部屋に向かおうとしたカガリだったが、不意に後ろから声を掛けられ、思わず背中を引きつらせてしまった。
慌てて振り返ると、そこには紫色の瞳をした少年が柔和な笑みを浮かべて立っていた。

「キラ・・!」

「オーブは魔法薬の授業で今日はお終いでしょ。オーブの寮まで送っていってあげるよ」

キラはにっこりと天使のように微笑むと、カガリの腕を取った。
カガリはオーブで、キラはアークエンジェル。
二人が所属する寮同士の関係はとても良好で、寮生同士も仲がいいのだが、それにしたってキラのカガリに対する過保護ぶりは凄まじい。
理由は明白だ。
この二人、寮は違うのだが、きょうだいなのである。キラは筋金入りのシスコンなのだ。

「いいって・・!私は今日、エリカ先生の手伝いを頼まれていて・・」

カガリは焦る心を隠して必死にキラを撒こうとするが、キラはそんなカガリの反応を楽しむかのように、ますます笑みを深くした。

「へえ。じゃあ僕も一緒に手伝うよ。人数は多いほうがいいでしょ」

「キラ!それは駄目だ!」

「どうして?」

キラの方が一枚も二枚も上手だった。
カガリは上手い言い訳が思いつかず、可愛らしく小首を傾げるキラを、涙目で睨み付ける。

「ごめんカガリ。そんなに困らないで」

くすりと困ったようにキラは笑った。

「知ってるよ。カガリはアスランのところに行くんでしょう」

「どうしてそれを・・あっ!」

慌てて口元を覆ったが、後の祭りだった。
過保護なキラのことだ、カガリが放課後にザフトの寮生と魔法の練習をしているなんて知ったら、絶対に反対する。
そう思って、カガリは今までアスランとの放課後学習を、今まで何でも話してきたキラに秘密にしていたのだが。

「隠さなくていいよ。放課後に練習なんて立派なことじゃない」

「えっ・・」

キラの口から出てきたのは、予想外の言葉だった。

「ザフトのアスランもいいやつなんだね。敵対してるオーブの寮生に、魔法を教えてあげるなんて。僕は彼のことを少し誤解していたみたいだ」

「キラ・・」

僕に頼ってくれなかったのは、ちょっと悔しいけどねと、苦笑いするキラを、カガリは感動の眼差しで見つめた。
絶対反対するなんて、自分はキラに対してなんて酷いことを考えていたんだろう。

(キラはいつだって、私の味方になってくれるのに・・)

「だからね、一つ提案があるんだよ」

キラを信用しなかった自分が情けないと恥じるカガリの顔を、キラは優しい笑みを浮かべながら、そっと覗き込んだ。









「アスラ~ン!」

「カガリ!」

秘密の部屋に入ってきたカガリを、アスランはいつもと同じように蕩けるような笑みで迎えた。
カガリと放課後ここで過ごすようになってから二週間。
毎日毎日放課後が待ち遠しくて。

「待ったか?」

「いや。俺も今来たばかりだ」

これもいつもと同じやり取り。
しかし、アスランはカガリの様子がいつもと少し違うのに気が付いた。

「カガリ、何か嬉しいことがあった?」

「どうして分かるんだ?」

アスランの言葉にカガリが目を丸くした。
その無邪気な感情表現が可愛くて、アスランは微笑んだ。

「なんだか、いつもより楽しそうだから」

「よく分かったな。実は今日、アスランにお礼をしようと思って」

得意げに胸を逸らして、カガリは言った。

「お礼?」

「そうだ。いつもお前に魔法や勉強を教えてもらうばかりだから、たまには私もお礼がしたくてな!」

「いいよ、お礼なんて。その気持ちだけで充分だ。それにこれも、俺がやりたくてやっているんだし」

紛れもない本心だった。
ほんの短い間でも、カガリと一緒に過ごせる。
それはアスランにとって、何よりも幸せなことだった。
欲を言えば、秘密の友人ではなく、恋人になって、色んなことをしたいけれど。

「駄目だ。このままじゃ私、借りの作りっぱなしじゃないか。少しは返させろ」

「カガリ・・」

けれど可愛い顔で睨まれてしまったら、それ以上何も言えなくなってしまう。

「分かった。だけどお礼ってなんだ?」

「ふふっ。まあ、見てろって!」

カガリは得意げに笑うと、ローブから杖を取り出し、アスランが何か言う前に杖を彼の前に突出し、呪文を唱えた。

「バリアント、アプシーセン!」
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