アスラン・ザラと秘密の乙女

SEED魔法学校に隣接している深い深い樹海の森。
恐れをなして誰も近づかないその森の、一番奥に住まう大きな毒グモ。
ザフトの寮長の務めとして、森の守り神といわれているその毒グモに、珍しい酒を献上しに行った帰り、アスランは運命の出会いをした。

複雑に枝分かれした木の枝にひっかっかって、もがいている少女。

一般の生徒は絶対に近づいてはいけないと、また近づこうとも思わないはずの樹海の森に、何故こんな女の子が?

そう思って、ぼんやりと少女を眺めていたアスランだったが。

「ぼんやり飛んでないでさっさと助けろよ!」

いきなり少女に怒鳴りつけられ、思わず面を喰らってしまう。




それがアスランとカガリの出会いだった。









「アスラン。待ったか?」

SEED魔法学校。
魔法学校なだけあって、この学校には、色々と秘密がある。
アスランがひょんなことから見つけた、この秘密の部屋もその一つだ。
特別な呪文を使わないと出現しない部屋。
この部屋を見つけたとき、アスランはまだ新入生だったのだが、その時は思いもしなかった。
誰も存在を知らない、この部屋を、こんな風に使う日がこようとは。

「いや。俺も今来たところだ。誰にも見つからなかったか?」

秘密の扉から入ってきたカガリに、アスランは甘い笑みを浮かべる。
それは大勢のアスランファンの女子生徒たちが見たら、眩暈を起こしてしまう程の美しい笑みだった。
しかし残念ながら、アスランはカガリ以外にはこんな風には笑わない。

「平気だったぞ!それよりもアスラン、明日は変身術のテストなんだ。雀をクジャクに変身させなきゃいけないんだけど、どうしてもハロになっちゃう」

「大丈夫だ、カガリ。俺は今日そのテストでSの評価を貰えたから、カガリに教えてあげるよ」

「本当か?ありがとう!アスラン」

嬉しそうに笑うカガリに、アスランもまた微笑みかける。
もちろん、とろけるような極上の甘さを含んだ笑みだ。

「じゃあ、さっそく始めようか。カガリ、杖を出して」

放課後、秘密の部屋で毎日行われる、アスランからカガリへの魔法のレッスン。
それは普段の学校生活では、決して馴れ合うことのできない二人が唯一、一緒に過ごせるひと時だ。

(本当に・・)

カガリの手を取り、杖を振る軌道を教えてやりながら、アスランは思う。

(秘密の部屋で、恋人と逢引することになるなんて、思いもしなかった)

新入生のときに、この部屋を偶然見つけた幸運に感謝する。
しかし一つ訂正すると、本当はまだアスランの一方的な片思いで、アスランとカガリは恋人同士ではないのだが、恋人でなくとも、カガリと一緒にいられるだけでアスランは幸せだった。






樹海の森で、二人は出会って、アスランはカガリに一目ぼれしてしまった。
だけど最初は気づかなかった。
枝にひっかっかった箒の柄を引き抜いてやり、飛行が下手なカガリを森の出口まで連れて行ってやり、そこで別れた。
二度と関わることはないと思ったのに、その後、学校で、庭で、食堂でカガリの姿を探す自分がいて、そこで初めて自分の気持ちに気が付いたのだった。


だけど、それは隠さなければいけない恋だった。
SEED魔法学校には、四つの寮がある。
それぞれアークエンジェル、ザフト、エターナル、オーブというのだが、この四つの寮の関係性は複雑で、いがみあっている寮同士の生徒の仲はとても険悪だ。
顔を合わせば喧嘩、授業では互いに足を引っ張ろうとして。
そして残念ながら、アスランの所属するザフトとカガリの所属するオーブはここ数年とても険悪だった。

(せめてカガリがエターナルだったらなあ)

ザフトと関係が良好なエターナルだったら、こんなコソコソ逢引なんてしなくて、堂々とできるのに。

「アスラン、どうしたんだ?それで次は?」

「ごめん、カガリ」

カガリの声に、物思いに耽っていたアスランは顔を上げた。

「次はね、杖の先をこう回して・・」

(ともかく、悩むのはいつでもできる。今はカガリと過ごせる時間を大切にしよう)

そう思って、アスランは重ねた手に、力を込めた。
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