アスラン・ザラと秘密の乙女





「まさか四人で共同生活なんてね」

一度も使われたことのない、埃のかぶった部屋を見回しながら、キラが信じられないというように言った。
二人部屋しかないSEED魔法学校で、唯一の四人部屋。
百年前の校長が、対立する寮の仲の悪さを嘆き、いつか四つの寮の生徒が仲良く一緒に生活ができる日が来るようにという願いを込めて、作れらた部屋。
叶うことのなかった当時の校長の願いが、百年の時を超え、ついに実現するときがきたのだ。
キラがローブから杖を取り出し一振りすると、部屋はたちまち綺麗になった。

「ラクスとカガリは大歓迎なんだけど、どうしてよりにもよってアスラン・ザラと一緒に暮らさなきゃいけないわけ」

「お前のせいだろう」

アスランは恨みがましい目でキラを睨んだ。
カガリと楽しく課外レッスンをしていたはずなのに、一体どうしてこういう運びになっているのか、頭がついていかなかった。

「そんなに喧嘩なさらないで下さい。四人で共同生活だなんて、きっと楽しいですわ」

険悪ムードが漂うなか、場違いなほどに可愛らしい声でラクスが言った。
この天然の少女はどんなときも、常におっとりのんびり構えている。
それが天然なのか、計算なのかは常に皆の議論の的ではあるが。

「それに、キラもアスランも大変な美少女ではないですか」

「やっぱり?僕って女顔だと思ってたけど、実際女の子になると、こんなに可愛いんだ」

「ええ、キラ。明日からキラの身だしなみを整えるのが楽しみですわ。きっとリボンやフリルがよく似合います」

「ラクスのリップグロスも貸してくれる?一回メイクしてみたかったんだ」

鏡の前でキャッキャやりだした二人を、アスランはげんなりした顔で見つめた。
自分は死にたい気分なのに、何故キラがあんなにはしゃいでいるのか、アスランには理解できなかった。
キラの魔法で真新しいシーツがひかれたベッドに倒れこむ。
傷心のアスランを丸無視して、盛り上がっていたキラとラクスだったが。

「では私、エターナルの寮長としての仕事がありますから、一旦失礼させて頂きますわね」

「ラクス、僕もついていくよ。きっと誰も僕だって分からないし」

キラはステップを踏むような足取りで、出かけるラクスに付いていってしまって、部屋にはアスランとカガリだけが残されてしまった。
普段のキラだったら絶対にそんな状況を作り出さないのに、女の子になった自分に浮かれているのだろう。

(何であんなに楽しそうなんだ・・)

キラとラクスの精神構造は、アスランの理解の範疇を超えていた。

(俺は、こんなにも参っているのに・・)

アスランは枕に埋めていた顔を、ますます押し付けた。

「あの・・アスラン・・」

傷ついたアスランに、カガリがそっと声を掛けた。
しかし、憐れむようなその声は、今のアスランを余計に絶望の淵に追い込むものだった。

「さっきはかばってくれて有難う。本当に、本当にごめんな・・知りもしない魔法を、安易にお前に掛けてしまって・・」

カガリはベッドに突っ伏しているアスランに近寄って、腰まで伸びた濃紺の髪に触れようとしたが。

「死にたい気分だ・・」

そう言って顔をあげたアスランに、カガリは声をつまらせてしまった。
いや、実際は声が出なくなってしまったのだ。
彼、いや彼女に見とれてしまって。
さっきまでは、カガリ自身もパニックになっていて、まじまじと少女になったアスランを見ていなかったのだが。
こうして間近で見ると、まぶたが少し赤いけれど、それが特別な化粧に見えるほど、アスランは息を呑む程の美少女だったのだ。
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