「全く王子の義務とはいえ、あんな奴とパートナーを組まなきゃいけない兄上が可哀そうだ」

舞踏会の連絡と打ち合わせが終わり、そのあとの予定もなかったハイネとシンは城の踊り場にいた。
人のあまり来ないこの場所は、城に住む王族の子息たちの隠れたたまり場の一つだ。

「シン、それ本気で言ってるのか?」

「当たり前だ!あんな男みたいでガサツな奴・・兄上にはラクスさんとかがお似合いなのに」

シンの言葉をぽかんとして聞いていたハイネだったが、すぐに吹き出した。

「何だよ?!」

「い~や。シンはまだガキだなと思ってさ」

ハイネはしばらくお腹を抱えて笑っていた。
目尻には涙がたまっている。

一体なにがそんなにおかしんだよ。

急にハイネに笑われて、シンは訳が分からず苛立ちに似た怒りが湧き上がる。
それに何となく、バカにされているということは分かる。
7歳年上のこの又従弟はよくシンを子供扱いするのだ。

「悪い悪い。そんな怒るなって」

赤い瞳をぎらぎらさせて睨み付けてくるシンの頭をぽんぽんと叩いて、ハイネは目尻に溜まった涙をぬぐった。

「いきなり笑われたら、誰だって気分悪くなりますよ」

シンは拗ねたようにプイと顔を横に逸らし、ハイネの手から逃げた。

「悪かったって。じゃあ詫びの代わりに教えてやるよ」

やっと呼吸の落ち着いたハイネがにやりと笑う。






「王子は姫にベタぼれだ」

「え?」

「それも大分昔から」




兄上が、ベタぼれ・・?

カガリに・・?


シンの思考が一瞬止まって、だけどすぐにぐるぐるとすごい速さで回りだす。


「兄上がカガリをって・・そんなはずない!」

一瞬の間のあと、すぐにシンは噛みついた。

あの兄上が、あんな女らしさのかけらもないやつに!!

「大体何でわかるんだよ!兄上が言ってたのか?!」

「王子の姫に対する態度を見てれば一目瞭然だろう」

カガリへの態度・・?
そんなの今までずっと見てきたけど、特に感じるものはなかった。

「別に普通じゃないか!」

「普通なわけあるもんか。特に姫を見つめてる時の王子の熱っぽい目。」

その瞳を思い出したのか、ハイネがくすりと笑った。

「狂おしいほど姫を愛してるって感じだぞ。まさに目は口ほどに物を言うだな。」

唖然としているシンを無視して、解説者気取りなのかハイネは目を細めてうんうんと頷いた。

「俺たちの間では周知の事実だけどな。気づいてないのは当の姫だけだと思っていたけど・・」

ハイネがちらりとシンに視線を投げる。
その瞳は意地悪だったけれど、年長のものから年少のものへ向けられる優しさがあった。

「まあ、それが分からないシンはまだ子供ってことさ」


そう言って壁に寄りかかっていた身体を起こし立ち去ろうとしたハイネだったが、2、3歩歩いたところでふと足を止め振り返った。



「あと何とかほど苛めたくなるっていうのも、せいぜい12歳くらいまでだと思うぞ」


立ちすくむシンにひらひらと手を振りながらハイネは今度こそ踊り場を離れた。
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