鎖
ドアを叩く音に、二人は瞬時に身を固くした。
逃亡中の二人が泊まるこの部屋に客人など来るわけがない。
来るとしたら、それは・・・
「おい、シン!いるんだろ」
「ハッ・・ハイネ?!」
咄嗟に反応してしまったことを、シンはすぐに後悔した。
闇雲に声は出さないつもりだったが、ドアの外から聞こえてきた声にあまりにも驚いてしまったのだ。
「ああそうだよ。だからここを開けてくれないか」
ドアの外から聞こえる声、それは確かにシンの又従弟のものだった。
飄々とした雰囲気を持ちながら、実は冷静で現実主義者のハイネをシンは慕っていたが、だからといって扉を開ける訳にはいかない。
シンはぐっと身を固くする。
何でハイネがここに・・
しかし彼もザフトなのだ。
諜報部隊でなくとも、カガリ捜索の任を受けていてもおかしくはない。
「大丈夫、俺は別にお前とカガリ姫を捕まえにきたわけじゃない」
まるで自分の心中を読まれているようなハイネの言葉に、シンはぎくりとした。
「お前たちと話がしたいだけだ。周りに誰もいない。開けてくれないか」
「・・・」
しばらくそのまま身動きしなかったシンだったが、意を決したように立ち上がった。
「シン」
不安そうに見上げてくるカガリに頷いて、シンは扉を開いた。
ハイネなら信用に足る人物だと思ったからだ。
外にはやはりオレンジ色の髪をした又従弟が立っていた。
「本当に、アスランの差し金じゃないんだな」
「ああ。誰にも言っていないから安心しな」
ハイネはニヤリと笑うとシンを押しのけ、ずかずか部屋に入っていく。
「ちょっ・・」
素早く廊下に怪しい人影がないか確認して、シンも慌てて部屋に入り扉をしめた。
「へ~いい部屋じゃないか。でも一人部屋かあ、お前らやるね~」
ハイネは楽しそうにぐるりと部屋を見回していた。
「そっ・・そんなことより、何でハイネがここにいるんだよ」
「俺はオクトーベルへの視察を命じられてて、その途中でこの街の飲み屋に寄ったんだけど、そこでどうも気になる話を小耳にはさんでね」
「気になる話?」
シンの赤い瞳が鋭くなった。
まさか自分たちがここに潜伏しているいう噂でも・・
「ここの宿主が酒飲みながら豪語してたんだ。今日の客でやむを得ず同室になった黒髪と金髪の美少年、その二人は今晩絶対に一線を越えるって」
「はっ?」
「同性同士の恋愛も切なくていいってさ。まあ俺は金髪の男の子が白い蝶って聞いて、すぐにピンと来たよ」
「何言ってんだ、あの宿主・・!!勝手なこと言いやがって」
どこかからかうような口調で同室を勧めてきた宿主の顔を思い出す。
「にしてもお前凄いこと仕出かしたな。アスランを出し抜こうなんて」
「だって・・アスランは最低な奴だ」
ハイネがアスランの名前が出すと、シンの顔が強張った。
「まあ確かに、アスランも悪いんだが・・」
表情を変えたシンを見て少し困ったように笑うと、ハイネはベッドに座ったカガリへと身体の向きを変えた。
「お久しぶりです、カガリ姫」