鎖
カガリを男装させるという案は、咄嗟の思いつきではあったが功を成し、軍人たちに気付かれることなく新しい馬車を借り、街を抜けることができた。
順調に旅は進み夜が更けるころには、馬車はユリウスの街と次の街の中間地点にある小さな町に入った。
「今夜はここで宿を借りよう」
本当は夜の間ずっと馬車を走らせていた方がいいかもしれない。
だけど昨夜は馬車のなかで夜を明かしたから、軍人の自分はともかく、きっとカガリは疲れが溜まっている。
だからシンは今夜はカガリをちゃんとしたベッドで寝かせてやりたかったのだ。
馬車から降りると、辺りに怪しい者がいないか確かめてから、カガリにも降りるように促した。
大分夜も深まって、街には人通りがほとんど無くなっていたが、シンはすぐに手ごろな宿を見つけた。
これでカガリを休ませてやることができると安堵しながら、戸を開けたのだが。
「一部屋しか・・それも一人部屋しか空いてない?!」
「はい。あとは満席ですね」
驚愕の表情を浮かべて、シンは宿屋の受付で固まった。
「それにこの街で宿屋はうちだけですよ。小さな街なんでね」
「そんな・・」
「別に男同士なんだし同室でもいいんじゃない?」
宿主の言葉にぐっとシンの喉が詰まった。
シンだって今一緒にいるのが本当に男だったら、何の躊躇いもなく部屋を取っていた。
だけど自分の後ろにいる少年は、紛れもなく女の子なのだ。
同じ部屋になんてできるわけがない。
「それに一人部屋だけどベッドは広いから、君たち二人一緒に寝ても全然問題ないよ」
「なっ・・!」
シンは自分の身体がカッと熱くなるのを感じた。
お・・同じベッドって・・!
できるわけないじゃないか!
でも、でも、今は非常事態だし、そんなこと言ってられないのか?!
だけど年頃の男女が同じベッドって・・いいのか?!
いや俺は全然嫌じゃないけど・・だってしょうがないんだし。
てか俺は構わなくても、カガリは嫌なんじゃ・・
カガリはどう思ってるんだろう?!でもそんなこと聞けないし・・
ああ何か恥ずかしくてカガリの顔が見れない!
身動きせずに固まったまま、グルグル思考を巡らせていたシンだったが、不意にその葛藤が打ち破られた。
「ああ。じゃあ、その部屋で」
「カッ・・カガリ?!」
慌ててカガリを見ると、彼女は全く平然とした様子だった。
「だって一部屋しかないんだ、仕方ないじゃないか。それにベッドに二人で寝れるなら問題ないじゃないか」
男の性やシンの葛藤を知りもせず、無邪気な蜂蜜色の瞳を向けてくる。
純粋というのは罪深いことなのかもしれない・・
シンぼんやりとした頭の隅で、そんなことを思った。
案内された部屋は質素ではあったが、小ざっぱりとした清潔な部屋だった。
ベッドのシーツは皺ひとつなくキチンと掛けられていたし、床も綺麗に磨かれている。
「ふうっ」
ポスンと椅子に座って、カガリがほっとしたように息をつく。
ずっと馬車のなかで精神的にも体力的にもやはり大変だったのだろう。
カガリのくつろいだ様子を見て、シンも身体の力を抜いた。
「シン、有難うな」
「え?」
いきなり礼を言われて、思わず聞き返してしまった。
「お前が一緒にきてくれて、本当に助かったよ」
「あ、うん」
「じゃなきゃとっくに捕まってた。本当に有難な」
その笑顔に、シンの胸がドクンと高鳴った。
まずいな・・
そう思って思わず顔を逸らした先にあったのは、清潔なベッド。
確かに大きいが、くっつかないと寝れないかもしれない。
ちゃんと抱いててやらないとカガリは寝相が悪そうだから落っこちちゃうかも・・
「うわっ・・!」
「何だよお前、何か考え込んだと思ったら急に叫んで」
「なっ・・何でもないよっ!」
恥ずかしくて感じの悪い言い方になってしまう。
まさか二人が一緒に寝ることを想像してしまったなんて、言えるはずがない。
やっぱり同じ部屋って・・まずいな、俺。
これから過ごす一晩を思うと、シンはどうしようもなく居たたまれない気持ちになった。
順調に旅は進み夜が更けるころには、馬車はユリウスの街と次の街の中間地点にある小さな町に入った。
「今夜はここで宿を借りよう」
本当は夜の間ずっと馬車を走らせていた方がいいかもしれない。
だけど昨夜は馬車のなかで夜を明かしたから、軍人の自分はともかく、きっとカガリは疲れが溜まっている。
だからシンは今夜はカガリをちゃんとしたベッドで寝かせてやりたかったのだ。
馬車から降りると、辺りに怪しい者がいないか確かめてから、カガリにも降りるように促した。
大分夜も深まって、街には人通りがほとんど無くなっていたが、シンはすぐに手ごろな宿を見つけた。
これでカガリを休ませてやることができると安堵しながら、戸を開けたのだが。
「一部屋しか・・それも一人部屋しか空いてない?!」
「はい。あとは満席ですね」
驚愕の表情を浮かべて、シンは宿屋の受付で固まった。
「それにこの街で宿屋はうちだけですよ。小さな街なんでね」
「そんな・・」
「別に男同士なんだし同室でもいいんじゃない?」
宿主の言葉にぐっとシンの喉が詰まった。
シンだって今一緒にいるのが本当に男だったら、何の躊躇いもなく部屋を取っていた。
だけど自分の後ろにいる少年は、紛れもなく女の子なのだ。
同じ部屋になんてできるわけがない。
「それに一人部屋だけどベッドは広いから、君たち二人一緒に寝ても全然問題ないよ」
「なっ・・!」
シンは自分の身体がカッと熱くなるのを感じた。
お・・同じベッドって・・!
できるわけないじゃないか!
でも、でも、今は非常事態だし、そんなこと言ってられないのか?!
だけど年頃の男女が同じベッドって・・いいのか?!
いや俺は全然嫌じゃないけど・・だってしょうがないんだし。
てか俺は構わなくても、カガリは嫌なんじゃ・・
カガリはどう思ってるんだろう?!でもそんなこと聞けないし・・
ああ何か恥ずかしくてカガリの顔が見れない!
身動きせずに固まったまま、グルグル思考を巡らせていたシンだったが、不意にその葛藤が打ち破られた。
「ああ。じゃあ、その部屋で」
「カッ・・カガリ?!」
慌ててカガリを見ると、彼女は全く平然とした様子だった。
「だって一部屋しかないんだ、仕方ないじゃないか。それにベッドに二人で寝れるなら問題ないじゃないか」
男の性やシンの葛藤を知りもせず、無邪気な蜂蜜色の瞳を向けてくる。
純粋というのは罪深いことなのかもしれない・・
シンぼんやりとした頭の隅で、そんなことを思った。
案内された部屋は質素ではあったが、小ざっぱりとした清潔な部屋だった。
ベッドのシーツは皺ひとつなくキチンと掛けられていたし、床も綺麗に磨かれている。
「ふうっ」
ポスンと椅子に座って、カガリがほっとしたように息をつく。
ずっと馬車のなかで精神的にも体力的にもやはり大変だったのだろう。
カガリのくつろいだ様子を見て、シンも身体の力を抜いた。
「シン、有難うな」
「え?」
いきなり礼を言われて、思わず聞き返してしまった。
「お前が一緒にきてくれて、本当に助かったよ」
「あ、うん」
「じゃなきゃとっくに捕まってた。本当に有難な」
その笑顔に、シンの胸がドクンと高鳴った。
まずいな・・
そう思って思わず顔を逸らした先にあったのは、清潔なベッド。
確かに大きいが、くっつかないと寝れないかもしれない。
ちゃんと抱いててやらないとカガリは寝相が悪そうだから落っこちちゃうかも・・
「うわっ・・!」
「何だよお前、何か考え込んだと思ったら急に叫んで」
「なっ・・何でもないよっ!」
恥ずかしくて感じの悪い言い方になってしまう。
まさか二人が一緒に寝ることを想像してしまったなんて、言えるはずがない。
やっぱり同じ部屋って・・まずいな、俺。
これから過ごす一晩を思うと、シンはどうしようもなく居たたまれない気持ちになった。