「あ~お腹いっぱい」

カガリがごろんと野原に寝っころがった。

「こんなところで寝るな、カガリ。風邪をひくぞ」

スノードロップの群生を見つけてから一時間ほど経っていた。
太陽は西に沈みかけて、風は大分冷えてきている。

「オーブではよく外で寝てたけどな」

見下ろしてくるアスランをよそにカガリはころりと寝返りを打った。

「それに・・プラントは涼しくて気持ちいい」

「君はまだプラントの気候に慣れていない。油断したらすぐに風邪をひく。もう日暮れも近い。帰ろう」

アスランに促され、分かったよとカガリが上体を起こす。
カガリが帰る気になったことに安心して、アスランは羽をはためかせ飛び立とうとしたが、不意に後ろから呼び止められる。

「アスラン」

「何だ?」

「また、ここに来ような」

振り返ると、カガリの西日に照らされた金髪と琥珀色の瞳がオレンジ色に染まっていた。

「スノードロップ気に入ったぞ。もちろん蜜の味もだけど・・」

カガリが近くに咲くスノードロップの花びらをゆっくりとなぞる。

「白くて小さくて可愛い。私に似ても似つかない花だけど、すごく綺麗だ」

オレンジ色の光に染まった、その横顔に心を奪われたのかもしれない。
アスランはカガリが触れているスノードロップに手をのばし、それを手折った。

「アスラン・・?」

そして、不思議そうに見上げてくるカガリの髪に、その白い花をそっと、挿した。

「え・・」

「よく、似合ってるよ・・」

金髪に白がよく映えて・・カガリはスノードロップの精のようだった。

白く小さな、可憐な花。
雪の雫のようなその花は、その外見には似合わずに寒い土地で生きていく強さを持っている。
冷えた土地で咲くその花の健気さは、見るものの心を強く打つ。


まるで、カガリのようだ。

今日出会ったばかりなのに、何度も俺の心を響かせたカガリ。
スノードロップのように見るものの心を捉えて離さない。




「あ・・ありがと・・」

カガリは照れを隠しているのか、少し怒ったような顔をしている。

「でも、お前本当に変なやつだな。急に・・びっくりしたぞ」

「えっ・・」

ほとんど無意識に、カガリの髪に花を挿したアスランだが、今更ながらに自分のしたことに自覚すると驚きと激しい照れが襲う。

「いや・・これは・・その・・」

「なに慌ててんだよ?ほんと面白いやつ!さ、帰るぞ」

そう言ってカガリが飛び立ち、少し遅れてアスランも彼女の後を追った。





黒い蝶と白い蝶が夕焼けの空のなかを飛んでいく。

そのオレンジ色の光のなかで、アスランはカガリへの恋心を自覚した。





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