シンは腕の中の少女を守るように抱きしめていた。
小刻みに震えるカガリの身体は細かったけれど柔らかく、暖かなぬくもりが愛おしくて、守ってやりたいという庇護欲がとめどなく溢れ出る。
震えを止めてやりたくて、腕でしっかりと包み込んだ。

「もう・・大丈夫・・大丈夫だから・・」

優しくそう言い聞かせながらカガリを腕に抱いていると、落ち着きを取り戻したのか不意にカガリが身じろぎをして、シンは抱きしめていた腕を緩めた。

「す・・すまない・・」

カガリはシンの腕からするりと抜けだすと、気まずそうな顔をしながらそのまま一歩後退した。
シンに抱きついたことに今更恥ずかしくなったのだろう。

「いや・・」

腕のなかのぬくもりがなくなってしまったことに少し寂しさを感じながらも、シンも何だか恥ずかしくなってぶっきらぼうな態度を取ってしまう。

「何か月ぶりだろう・・嬉しくて」

よほど嬉しいのだろう、いつもだったらシンの態度に怯むカガリだったが、今はそれを気にかけることもなく、涙できらめく琥珀を真っ直ぐにシンへと向ける。

「でも・・お前、どうして・・」

「俺は・・兄上の、アスランのやっていることが許せなくて・・!」

シンはきらきらと輝く金の瞳を直視することができず目を逸らした。
今までカガリに酷い態度をとってきた自分が今ここにいる。
その事実が気恥ずかしくて、わざと怒ったような声を出してしまう。

「こんなとこにアンタを閉じ込めるなんて間違ってるから・・!」

本当は、純粋にカガリを助けたかったと言いたかった。
でも照れが邪魔をして素直になることができなかった。

「だから・・別に・・アンタの為じゃない。アスランのやってることが気に食わないだけだ」

「シン・・」

「それに・・フレイ。アンタの友達のフレイがこの計画を建てて、俺はそれに手を貸しただけだし」

沈黙になるのが怖くてシンはフレイのことを持ち出した。

「フレイが・・」

「そう、別に俺がどうしてもアンタを助けたくて・・とか、そんな風に思って自発的にやったわけじゃない。」

何でこういう言い方しかできないのだろう。
攻撃的な自分が嫌になる。
こんなんじゃカガリが自分に怯えるのも当たり前だ。

シンが心のなかで自己嫌悪をしていると、不意に柔らかい身体に抱きしめられた。

「え・・?」

先ほどの、勢いで抱きつかれたのとは違う、落ち着いた温かい抱擁。

「それでも私は嬉しい。有難う、シン」

「カガリ・・」

さっきは突然のことだったのと、カガリを安心させてやりたかったのとで、ゆっくりと感じることのできなかったカガリの身体。
今はその柔らかくて華奢な身体をはっきりと自分の身体で感じることができる。
暖かな体温とカガリの想いがゆっくりと伝わってきて、何故だが泣きたくなった。

好きな人とこうしているのって、泣きたくなるくらい嬉しいものなんだ・・・

胸の奥から湧き上がる暖かい思いのままに、カガリの肩に顔を埋めようとしたとき、シンの目の端に天蓋付きの大きなベッドが目に入った。

一人で寝るにはあまりにも広いベッドと、腕のなかの柔らかい身体の感触はすぐに結びついて、シンにあることを連想させる。





――――この身体は兄上に抱かれたのか・・?
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