鎖
アスランがラクスに呼び止められたとき、北の塔では――――。
アスランとメイド以外の人に会ったのは、この部屋に閉じ込められて初めてのことだった。
だからその顔を見た瞬間涙がこみ上げてきて、扉の外からやってきた人物にカガリは走り寄って抱きついた。
「ちょっ・・カガリ・・」
抱きつかれた少年は、予想外のカガリの行動に戸惑い紅い瞳を泳がせている。
カガリも少年が慌てふためいてるのを肌で感じていたが、それでもすぐに離れることはできなかった。
数か月ぶりに、外部の人間と会うことができた。
ただそれが嬉しくて。
少年も落ち着いてきたのか、泳がせていた手をそっとカガリの背中に回して、おそるおそる抱きしめた。
「もう・・大丈夫だから・・カガリ」
呉服屋に変装するというのはフレイの案だった。
強硬突破が無理なら、上手く相手を欺くしかない。
アスランはカガリの衣服を月に二度、プラント王家ご用達の呉服屋に頼んでいる。
それを上手く利用することにしたのだ。
―――今回は採寸があるので、直々にカガリ様のもとに出向いてきました。
塔の守衛はあっさりとだまされた。
フレイの用意した偽造した呉服屋の紋章の効果もあったのだろう。
ガラガラと大きな荷車を引きながら、呉服屋の見習いに変装したシンは、やすやすと北の塔に侵入することに成功した。
やっぱり、強硬突破は無理だったかな・・
塔の衛兵は門と塔の扉、そしてカガリの部屋の前にそれぞれ二人ずつ。
自分一人では何とかなっても、カガリを連れて逃げるのは難しかったかもしれない。
そんなことを考えつつ、内心ドクドクと騒ぎ立てる心臓の音が聞こえないかハラハラしながら、衛兵がカガリの部屋の鍵を開けるのを待っていた。
幸い、焦りと緊張を衛兵に気付かれることもなく、シンはカガリの部屋に入ることができた。
しかしカガリの姿は見えない。奥の寝室にいるのだろうか。
パタンと背後でドアが閉まる音がして、ほっと溜息をつくと肩の力が抜けた。
ひとまず第一関門クリアだ。
背中に脂汗が伝っていたことに苦笑しつつ、シンは部屋を見回した。
全て改装したのだろうか・・。
北の塔の暗い外観とは似合わない、女のひとが好むような豪華で美しい部屋。
けれど窓がひとつもない密閉された歪んだ空間。
「こんなとこ取り繕ったって・・」
やっていることは、最低じゃないか。
シンはぐっと拳を握りしめ、部屋の奥にある寝室に向かう。
寝室の扉を開いて、すぐに目に飛び込んできた金髪。
それは数か月ぶりの。
「カガリ・・!」
*