鎖
これ以上ここにいて、ラクスと会話してはいけない。
でないと・・必死に隠して守ってきたものが、全て崩れてしまう。
それは分かっているのに、アスランはラクスの言葉に胸を掴まれてしまった。
そのまま立ち去ることができず、アスランが後ろを振り返ると、ラクスは静かにアスランを見つめていた。
わずかに同情を含んだその表情とたたずまいは、普段のおっとりとして無邪気な彼女よりもずっと大人びて見えた。
「どちらかになりきれれば、楽になれますのにね」
「ラクス・・」
ラクスの言葉に、アスランは息を詰めた。
そうなのだ。
それができなくて、俺はカガリには憎まれ、ザフトでは信頼を失った。
どちらかを切り捨てることができれば、こんなことにはならなかっただろう。
自分の不甲斐なさに耐えるように、アスランはきゅっと握った拳に力を入れ、何もかも見透かすような空色の瞳から逃れるように顏を背けた。
自分の心中が他人に筒抜けだということは、何とも居心地の悪いものだったからだ。
「でも・・それは個性をなくすという、とても悲しいことですわ」
「え・・?」
しかし、ラクスはあくまでも穏やかにアスランと対峙することを辞めなかった。
「迷っても、悩んでもいいのです。大事なのは、それはいかに相手に伝えるかということですわ」
「相手に、伝える・・?」
「はい。アスランは一番伝えたいことをちゃんと言葉にしましたの?」
「俺・・は・・」
カガリにオーブに行ってほしくなくて、自分の傍から離れないでほしくて。
捕虜という名目で愛人にして、自由を奪って閉じ込めた。
「・・・」
押し黙ってしまったアスランに、ラクスは幾分同情と親しみの籠った声で言った。
「貴方はとてもお強いのに、臆病ですのね」
「臆・・病・・」
だったのだろうか。
カガリに拒絶されるのが怖くて、だから力ずくで自分のものにした。
自分がカガリを求めても、カガリは絶対オーブを選ぶと分かっていたから・・。
でも、もし・・
「自分の想いを自分の胸に閉じ込めて苦悩するのは、独りよがりな甘えですわ」
「ラクス・・」
「言葉にしないといけないこともあるのです、アスラン」
俺の想いを、言葉に・・。
拒絶されるのを恐れずに正直に伝えれば、こんなことにはならなかったのだろうか。
君を放したくないと。
「でも・・俺はもう・・」
既にここまで来てしまった。
今更、想いを伝えたところでもう遅いのだ。
「確かにもう遅いかもしれません。ですが想いを伝えなければ、何も始まりませんわ」
「・・・」
不意にカガリの泣き顔が頭に浮かんだ。
この数カ月、何度も何度も見た彼女の泣き顔。
嫌だ。
カガリが悲しむところなんて見たくない。
でも、泣かせているのは俺なんだ。
俺は太陽の下、明るく笑うカガリが好きだったのに。
「カガリ・・」
そう、大好きなんだ。
昔も今も・・。
「会いたい・・」
今からでも・・間に合うだろうか。
伝えていいだろうか、君に。
君を愛していると。
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