オノゴロへの攻撃を決行しないと決まってから、ザフト内でのアスランへの風当たりは厳しくなっていた。
さすがにプラントの皇子であるアスランに直接文句を言う者はいなかったが、軍人たちのアスランを見る目に尊敬の眼差しをもはや無く、態度は冷たいものに変わっていった。
普段だったらつっかっかてくるイザークやディアッカも、アスランに絡んでくることはなく、部下として淡々と接してくるだけだった。

怒鳴りつけられたほうが、全然マシだ。

イザークたちは自分に失望している。
もう何を言っても無駄だと諦めているのだろう。
それは、他の軍人たちも同様で。

自らが下した決断が招いた結果とはいえ、今のザフトでの状況はアスランにとって辛いものだった。







「お久しぶりですわね、アスラン」

カーペンタリアから城に戻り、次の会議まで私室で過ごそうとしたアスランは、甘く可愛らしい声に呼び止められた。

「ラクス」

振り返ると、そこには桃色の髪に空色の瞳をした幼馴染が優しく微笑んでいた。

「嫌なことでもありました?」

「え・・?」

「とてもお辛そうな顔をされてますわ」

「そんなことは・・」

ラクスに会うのは久しぶりだった。
少なくともオーブと戦争を始めてからは会っていなかったから、デビュダントボール以来だ。

デビュダントボール・・
カガリを腕に抱いて踊った夜を思い出し、アスランの胸がきりりと痛む。

「オノゴロには攻め込まないと、イザークから聞きました」

「軍人でないあなたには、関係のないことです」

「カガリさんはお元気ですの?」

ラクスの口から戸惑いなくカガリの名が出てきたことに、アスランの瞳が僅かに揺れる。
アスランがカガリを幽閉してから、その名をアスランの前で口に出したのはシンだけだった。
恐らく皆、触れてはいけないと思っていたのだろう。
それにオーブと戦争が始まってから、アスランは忙しさに撲殺されて友人や幼馴染とほとんど顔を合わせていなかったし、自らもそれを避けていた。
カガリのことを追及されるのが怖かったのだ。
自分とカガリの仲を知る友人たちに、自らの胸のうちを隠せなくなりそうで。

そんなアスランの胸の内を知ってか知らずか、ラクスはふんわりと穏やかにアスランの触れて欲しくない場所に入り込んでくる。

「どうしていらっしゃるのか気になりますわ。もう三カ月以上もお会いしておりませんもの」

「彼女は・・敵国の姫です」

「でも、わたくしのお友達ですわ」

「そんなことは関係ありません。俺は・・もうこれで失礼します」

これ以上ラクスと会話をしたくなかった。
アスランはこの幼馴染が苦手だった。
ふんわりとした雰囲気を醸し出しながら、その胸のうちでは何を考えているのか分からない。
掴みどころがないのだ。

「お友達の心配をしてはいけませんの?」

「カガリは捕虜です。友達という表現はふさわしくありません。言葉に気を付けてください」

アスランは今度こそ、その場を立ち去ろうとしたが。

「あら、お友達というのはカガリさんのことだけではありません。あなたのことを含めて、ですわ」

「え・・?」

「皇子としてのあなた、一人の黒い蝶としてのあなた。その狭間で苦しんでおられるのでしょう」








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