カガリはちゃんとメッセージを読んだかしら・・

フレイは私室の窓枠に片手で頬杖をつきながら、美しく整備されたバラ園をぼんやりと眺めていた。
北の塔に閉じ込められたカガリのもとへ届けられる昼食に、城の厨房にメイドを忍ばせて、密かに手紙の入ったスコーンを混ぜたのだ。
蜜のかかったスコーンは、お茶会でいつも食べていたカガリの好物だから、カガリが手にとる可能性は高いだろう。

『助けにいくから』

たったそれだけの手紙だから、カガリが気づかなくても問題はない。
けれどもし、北の塔に幽閉されたカガリが孤独と絶望に打ちひしがれてるとしたら、それは希望の光になるに違いない。
助けがくるということ。
また、私たちがカガリを助けようとしていることが。


私たち・・。
それがまさか、私とシン・アスカだとは思わないでしょうけど・・

苦笑すると同時に、フレイは胸の奥にわずかな痛みを感じた。

そう、カガリを救出しようとしているのは私とシン・アスカで、ラクスとメイリンではないのだ。














アスランがカガリを監禁したと聞いて、真っ先に向かったのはラクスのところだった。

「ラクス、聞いた?!アスランがカガリを・・」

「ええ。お城でも屋敷でもその話題で持ちきりのようですわね」

「アスランが何でそんなこと・・一体どうして?!」

「分かりませんわ」

ラクスが悲しそうに顔を伏せる。
横にいるメイリンも困惑したような顔をしている。

誰も現状についていけていないのだ。
アスランがカガリを閉じ込め、慰み者にしているなど。

「何があったっていうのよ・・」

訳が分からない。
苛立ちと困惑が胸のなかで渦を巻き、フレイは唇を噛んだ。

アスランがカガリを溺愛しているのは知っていた。
具体的に彼がそう口にしたわけでもないが、態度や行動を見ていれば誰でも分かる。
むしろ分からないほうがおかしいというくらい、アスランはカガリを愛していた。

それなのに、どうしてこんなことに。
オーブとプラントは戦争になったが、カガリの処遇などどうにでもなるはずだ。
捕虜なんかにする必要なんて、どこにもない。
アスランとカガリの間に一体何があったというのだ。

でもそんなことを考えるのは後だ。
私たちがしなければいけないこと。

それを思って、フレイは顔を上げた。


「どうする?ラクス・・メイリン」

「フレイさん?」

「私たち、どうすればいいのよ!カガリの親友として!カガリの為に!」

カガリの親友だからこそ考えなければ、やらなければいけないことがあるはずだ。
城内でこそこそと噂をするその他大勢のように、何もしないわけにはいかない。
フレイはラクスも自分と同じような考えを持っていると信じて疑わなかった。

「今回のことは、アスランとカガリさん、お二人のことですわ」

「え?」

静かだけれど、凛とした声は、はっきりとフレイの耳に届いた。
けれどその言葉はフレイの期待したものではなく、思わず聞き返すような返事をしてしまった。

「これからどうするのか、どうしなければいけないのか。それは・・お二人が決めることですわ」

「ラクス様・・」

ラクスの言葉にメイリンも戸惑ったような声をあげる。
メイリン自体もどうしていいのか分からないのだろう。
けれど、フレイにはメイリンを気遣う心の余裕はなかった。

裏切られた。

はっきりとそう感じた瞬間、怒りが血管を通し体中をかけ巡った。

「何よ?!私たちは関係ないってわけ?!」

「フレイさん、アスランとカガリさんは」

「ラクス!!アンタそれでもカガリの親友なの?!」

ラクスが何か言おうとしたことも分かったが、フレイの勢いはもう止まらなかった。
それにどうせラクスの言うことはよく解らない綺麗ごとだ。

「親友だからこそ、ですわ」

「辛い目にあってる友達を放っておくのが親友なわけ?!」

「そうではありません」

「言葉が違うだけで、意味は同じじゃない!もういいわよ!分かったわよ!」

「フレイ様・・」

「ラクスがそう言うなら、もういいわよ!」

呼びかけてくるメイリンも無視して、フレイはその場から出て行った。








ラクスには、かなわない。
それは心の奥でいつも感じていたこと。

普段はおっとりとしているのに、本当は自分よりもずっと深く広い視野を持っているラクス。
4人でいるときも、最初はおしゃべりな自分が話の中心ではあるけれど、結局最後に皆が耳を傾けるのはラクスの言葉だ。


だからといって、別に僻んでいるわけでもない。

ただ・・

「ずるいのよ・・」

きっと自分の考えなど、ラクスは手に取るように分かっているはずだ。
それなのに、私はラクスが何を考えているのか分からない。

今だって、今までだって。






「お嬢様、シン様がお見えです」

コンコンとドアを叩く音がして、思考に沈んでいたフレイの意識が浮上する。

「通していいわ!」

メイドにそう答えると、ぶんぶんと頭を振って、余計な考えを追い出す。
ラクスのことなんて、今はどうだっていい。

「私は絶対・・カガリを助けるんだから・・」






「えっと・・お邪魔・・します」

屋敷の門を通され、おずおずとフレイの部屋に入ってくるシンを見て、フレイが苦笑する。

「アナタ、この前も思ったけど、女の子の部屋入ったことないの?」

「はっ?何でだよっ・・」

シンの慌てたような反応。
どうやら図星のようだ。

「何となく聞いてみただけ。それより、準備できた?」

「それは、ばっちり。だけど本当に上手くいくのかよ」

「そればっかりは分からないけど・・やるしかないわよ。まあ強行突破よりは確率は高いから」

ラクスとメイリンの協力を仰げないとなると、カガリ救出のために誰か他の協力者が必要だった。
さすがに自分一人ではあの強固に守られた塔からカガリを救い出すことは難しい。
そう思っていたとき、シンを北の庭園で見かけたという友人の話を小耳にはさみ、網を張ってみたのだった。

カガリを慕う、向こう見ずな少年。

協力者としては適任だ。




「決行は、明日ね・・」

カガリを助け出して見せる。
互いに複雑な思いを胸に抱きながらも、同じ決意を胸にフレイとシンは頷き合った。
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