鎖
「うっわ~!綺麗だなあー」
カガリは感激したように言って、すとんと野原に降り立った。
「これがスノードロップか」
花に顔を近づけてまじまじと観察しているカガリの背後にアスランも着地する。
ここは街のはずれの野原だ。
カガリに無理やり城の外に連れてかれ、スノードロップを探すために空を飛んで30分後、この野原一面に咲くスノードロップの群れを見つけた。
「まったく、変わったお姫様だ・・」
はしゃぐカガリを見つめながら呆れた様な口調で呟くが、その翡翠色の瞳は柔らかく細められていた。
城の外など用事がなければ出ないのに。
それも野原なんて。
視線の先のカガリの金色の髪はプラントの弱い太陽の下でもキラキラ輝いてる。
今日初めて会ったばかりなのに・・
本当に、君に振り回されてばっかりだ。
さわりと冷気を含んだ気持ちいい風がアスランの濃紺の髪を撫でた。
「はい、アスラン」
カガリはスノードロップを一本手折ってアスランに手渡した。
「蜜、飲んでみろ」
「ああ・・」
アスランはスノードロップの蜜に口をつける。
瑞々しい甘酸っぱさが口の中に広がった。
「美味しい・・」
「だろう?!」
カガリが嬉しそうにアスランの顔を覗き込んで、アスランの心臓がどくんと跳ねる。
「城にある蜜よりずっと美味しいだろう?」
「ああ・・」
紅くなった頬を隠すように、カガリから視線を逸らしながら、アスランが答える。
さっきからずっとこうだ。
空を飛んでいるときもカガリが近寄ってくると頬が熱くなる。
何なんだ・・これ・・
「わたしにもくれ!」
そんなアスランに気付くことなく、カガリはアスランの手からスノードロップを抜き取り、そのまま蜜を吸った。
「えっ・・カガリ・・」
「わー!甘酸っぱくて美味しい~!これがスノードロップかあ」
動揺するアスランに目もくれず、カガリが嬉しそうに笑って、次のスノードロップを物色し始める。
しかしアスランはすぐに動けなかった。
俺が蜜をすったスノードロップを・・そのまま・・
そう思うと、さらに心臓が激しく高鳴って、どうしていいか分からなくなってしまう。
「お前、もう蜜いいのか?お腹いっぱいか?」
「ああ・・いや・・探す・・」
「なんか顔赤いぞ?どうしたんだ?」
「いやっ・・あの・・なんでもないんだ・・これは。なんでもない」
「変なやつだな」
カガリはくすっと笑うと、また頃合いのよさそうなスノードロップを探しはじめる。
変な奴。
今までの俺とは程遠い言葉。
冷静沈着で大人っぽく、真面目で優秀。
そう周りから言われてきたし、自分でもそう思ってきた。
それなのに、カガリといるとどうもいつもの俺でいられなくなる。
一体君は俺にどんな魔法を使ったんだ?
*