美しい刺繍の入った白いテーブルクロスの上に、カチャカチャと食器が置かれ、食卓の用意がされる。
普段だったら何の感情もなく、その様子をぼんやりと眺めているだけだったが。

「あ・・」

昼食のサイドメニューとして、テーブルの端っこに置かれたお菓子。
蜜がたっぷりかかったスコーンは、ラクスやフレイ、メイリンとお茶会をするときに必ず出てきたものだった。

カガリがこの部屋に閉じ込められてから、初めて食事のメニューに関心も持ったことに気付かぬまま、食事の支度を終えたメイドが淡々とお辞儀をして下がっていく。
ここのメイドは皆、カガリに対して無関心で無反応だ。
話しかけても返事もせず、目も合わせない。
言葉の通じない異国の者だからということもあるが、おそらくカガリと関わってはいけないと、命令されているのだろう。
普段だったらメイドがこの部屋にやってくるたびに、自分と他人との接触を完全に遮断しようとするアスランに怒りを覚えていたカガリだったが、今はただ目の前のお菓子に心を奪われていた。


「懐かしいな・・」

バスケットに入ったスコーンを手に取ると、甘い蜜の香りがふんわりと広がった。
その甘い香りに、そう遠くない過去の記憶が蘇る。

暖かな午後の太陽の下、4人で集まって、笑い合った日々。

4人とも全く違う性格なのに、皆でいると楽しくて。
これからもずっと皆で仲良くやっていけると思っていたのに。

「みんな、元気かな・・」

こんなことになっちゃって、私のこと心配しているだろうな・・
怒るフレイに落ち着けと諭すラクス。それをオロオロと見守るメイリン。
そんな光景が容易に想像できて、カガリの口が緩む。
一緒に過ごしてきた年月のおかげで、たとえその場にいなくても、あの三人のことなどすぐわかる。

「会いたいな・・」

4人で楽しく過ごしていた日々を思い出すと同時に、それを奪ったアスランへの憎しみも生まれてくる。

彼はもはや、自分の知っているアスランではない。
オーブの憎い敵なのだ。

オノゴロを焼くと言われ、酷い抱き方をされたあの晩から一週間。
アスランはオノゴロ遠征の為に城を留守にし、この部屋にはやってこない。
オノゴロ攻撃の為、まずは攻撃拠点とする近隣の街を落とすのだろう。
オノゴロは、それから。
その前に何とかここから脱出してオーブに戻らなければならない。
アスランがいない今は、逆にチャンスでもある。
けれど完全に閉ざされたこの空間から逃れる術が見つけられず、カガリの焦燥は募っていった。

―――そんなときは、甘いものを食べるのが一番ですわ

不意に、脳裏におっとりした声が響いた。
桃色の髪をした、可愛らしく美しい親友の声。

「ラクス・・」

確かに彼女がここにいたら、そう言うだろう。
考えても仕方がない、甘いものを取って、頭を休めなさいと。

「そうだな・・」

カガリはふっと表情を緩め、手に取ったスコーンを半分に割った。
そうすると中に閉じ込められていた甘い香りが広がって・・
カガリの視線が、スコーンにくぎ付けになる。

「え・・?」

スコーンの中に白い紙切れが入っていたのだ。

「なんだ・・これは・・」

ドクンドクンと心臓が高鳴るのを感じる。
はやる心を抑え、慎重に紙切れを取り出して、ゆっくりと折りたたまれたそれを開いた。

そこにあったのは見慣れた親友の文字。

「フレイ・・!!」

その名を口にした途端、カガリの蜜色の瞳から涙が溢れ出た。





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