会議室の空気は悪かった。
あからさまにため息をつく者、がっかりと落胆する者と反応は様々だったが、たった今決まった計画に賛成できないという点では皆の思いは一致していた。

ひしひしと部屋中の視線を一身に受けながら、重い空気に耐えるように、アスランは肘を立て顔の前で組んでいた両手に力を込めた。






「ザフトの頂点である皇子がそう仰るのなら、我々は従うまでです」

会議の進行役を務めるハイネが画面をトンと叩いた。

「今後の対オーブ戦は、国境の防衛に従事すること。無用な被害は出さないということを第一に、プラントを守るんだ。分かったな、諸君!」

ザフトの赤服のなかで人望もあり、慕われているハイネではあったが、皆の反応は鈍かった。

昨日の会議から一夜明け、今日は対オーブ作戦を決める本会議であった。
オノゴロを攻撃するかどうかということが今日の焦点で、戦争の早期解決にはそれが一番だとほとんどの者が賛成した。
ずるずる戦争をしていても、国も人も疲弊するだけだ。
それにオーブとプラントの戦力差ははっきりしている。

しかしプラントの皇子であり、ザフトのトップでもあるアスランが首を縦に振らなかった。
オノゴロを攻撃すれば双方にそれなりのダメージが出るし、そこに住む民間人に危害が及ぶと、オノゴロ攻撃作戦を認めなかったのだ。
ザフトの会議は基本的に多数決だが、その頂点にあるアスランが同意しなければ、その意見は通らない。
結局ザフトはあと三カ月、オーブ軍への防衛作戦のみに留まることになった。


「貴様には失望した」

なんとも言えない空気のなか、冷たい声が静かに響いた。
普段キンキンと喚き散らすイザークのその声に、彼が本気でアスランに失望していることが分かる。

「一晩頭を冷やせば、馬鹿な考えは無くなると思っていたがな」

「イザーク・・」

二コルの呼びかけに答えず、イザークはガタンと椅子から立ち上がり、そのまま会議室を出て行った。

「ほんと、がっかり!ザフトは一体どうなっちゃうわけ?」

続いてディアッカが立ち上がる。
口調はふざけていたが、怒りと苛立ちが全身からにじみ出ていた。
ディアッカに続いて、他の赤服たちも次々に立ち上がり、会議室から退出していく。
二コルは心配そうにアスランを見ていたが、さっさと出て行った二人のことが気がかりなのか、退出していく人の流れにのっていった。
50人程いた会議室はあっという間にアスランとハイネだけになった。

「こうなることは、分かっていただろう」

ハイネが呆れたようにアスランを見る。
でもその瞳からは軽蔑や侮辱といった感情は見当たらなかった。
言いつけを守らずに傷ついた子供を見るような、そんな瞳。

「ハイネ・・」

「それにオノゴロを落とすべきだって、お前が一番よく解っているだろう」

アスランはきりりと唇を噛んだ。








カガリが俺のことを心配してくれたら、オノゴロは攻撃しない。

それは一縷の望みに縋った賭けだった。
自分勝手で卑怯な賭けだと自分でも分かっていた。
きっと負けるということも。

そして自らの予想通り、あっさりと賭けに敗れて。
でも、その方がいいのだ。
オノゴロを落としたほうが、プラントにとっても、長い目で見ればオーブにとっても。
それが分かっているから、赤服を纏った戦友たちに非難されるのが辛かった。
彼らの言っていることが正しいと、自分が間違っていると分かるから。
それに赤服たち、特にイザークやディアッカ、二コル達とは相性がいいとは言えなかったが、互いに信頼しあっていた。
それはべたべたした付き合いよりも、アスランにとって尊く大切なものだった。
彼らから与えられる信頼を、裏切りたくはない。






それでも。







――――オノゴロを焼かないで!!お願い!!


琥珀の瞳に涙を溜めて必死に懇願してくるカガリの姿が頭から離れなくて。


オノゴロ攻撃作戦を認めることは、出来なかったのだ。






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