鎖
アスランは本当に変わってしまったんだ。
私の知っているアスランは、もういない。
真面目で優しくて、でも不器用で危なっかしい彼は。
何の感情もなくオーブを、オノゴロを焼くという彼に湧いて出てきたのは、憎しみという感情。
ともに共有してきた10年間という歳月はもはや消え去り、オーブの敵に対する純粋な憎しみだけが、カガリの心を支配した。
「・・・さない」
どうしようもない怒りに震えたせいか、出てきたのはくぐもった声だった。
「え?」
「オノゴロを焼くだなんて絶対に許さない!!」
目の前の憎い敵に、強い怒りと決意の籠った琥珀の瞳が向けられる。
「無力な君に何ができる?」
その強い琥珀のまなざしに、アスランの翡翠が僅かに揺れる。
しかし彼は動揺した様子もなく、嘲るように笑った。
「君は大人しく俺に抱かれていればいいんだ!!」
アスランはカガリの細い手首を掴むと、ベッドにうつ伏せに引き倒し、そのまま覆いかぶさった。
「やめろ―――――!!」
つんざくような声が寝室に響く。
「放せ!!私に触るな―――!!」
カガリはアスランから逃れようと力の限り暴れ回った。
オーブの侵略者にこの身を暴かれなど、死んだほうがましだと思った。
今まで数えきれない程アスランに抱かれて、そのたびに抵抗していたけど、こんな屈辱を感じたのは初めてだった。
それにアスランに無力と言われたことが許せなかった。
そうしているのは、自分をこんなところに閉じ込めているアスランなのに。
自分はオーブに戻って戦争を辞めさせたいのに。
「暴れるなっ。君が痛い思いをするだけだぞ」
「うっ・・」
いくら全力で抵抗しても、あっさりとアスランに抑え込まれてしまう。
羽を押し潰されて圧し掛かられた背中に体重を掛けられ、息が苦しくなる。
「大人しくろ、カガリ」
「やめっ・・・!!」
それでも懸命に抵抗しようとするカガリの寝着を、アスランは背中から乱暴に引き裂いた。
「嫌――――!!」
繊細な寝着はあっという間にただの布きれになり、アスランはカガリの身体の下に手を差し込み愛撫しようと身体を浮かす。
そのアスランの重みから解放された一瞬の間を、カガリは見逃さなかった。
「触るなと・・!辞めろと言っている!!」
カガリは上半身を捻って、思い切りアスランの頬を引っ叩いた。
パアンと乾いた音がして、何が起こったのか理解ができなかったのか、アスランの動きが一瞬止まる。
カガリはその隙にアスランの下から、這い出ようとした。
けれどもすぐに覚醒したアスランに再び抑え込まれてしまう。
「放せ・・よっ!」
「やってくれたな・・」
もがくカガリの頭上から聞こえてきたアスランの声は重く低かった。
背中から圧し掛かられて、彼の表情は見えないけれど、きっと恐ろしい形相をしているだろう。
それとも能面のように無表情な顔か。
いずれにしても、彼の声音に普段のカガリだったら震えあがっていただろう。
「お前なんかに、お前なんかに!!」
けれども怒りに満ちた今のカガリは、アスランに怯えることなく暴れ続ける。
そんなカガリを押さえつけながら、アスランの翡翠色の目が無慈悲に瞬いた。
「分かっているんだろな…俺にこんな態度を取って」