鎖
黒い羽の蝶と白い羽の蝶。
二種類の蝶はそれぞれプラントとオーブという国に分かれて暮らしている。
羽の色は違えど二つの国は友好関係を結んでいて、王族同志も親交が深かった。
「私はカガリ・ユラ・アスハだ!」
「ようこそプラントへ、カガリ姫。私はプラントの皇子、アスラン・ザラと申します」
アスランはカガリの手を取って、手の甲に唇を落とした。
その仕草はまだ10歳だというのに洗練されている。
「カガリだ!」
「え?」
「カガリ姫なんて呼ばなくていいぞ!これからは一緒に暮らすんだからな!」
顔を上げると目の前の金髪の少女はまんえんの笑みを浮かべていた。
「私もお前のことアスランって呼んでいいか?」
「あ・・ああ・・」
アスランはその笑顔にただ圧倒されて、口ごもった返事しかできなかった。
プラントとオーブ。
この二国は親睦を深めるため、交代で王族の子息を互いに留学させていた。
今回はプラントにオーブの王ウズミ・ナラ・アスハの一人娘のカガリがやってくることになった。
期限は十年。
その間カガリはプラントの王族の子息たちと一緒に城で暮らすことになる。
アスランとカガリはそれぞれプラントとオーブの王の一人息子、娘であるので、アスランは父であり国王であるパトリックからカガリ姫には失礼のないようにと何度も言われていた。
だけど・・初めて会った白い蝶の姫はアスランが想像していたイメージとかけ離れていた。
「それにしてもプラントは寒いな~」
天窓から身を乗り出すとカガリぶるりと身体を震わせた。
ここはカガリの私室として宛がわれた、プラント城内で一番日当たりのいい南の角部屋だ。
カガリはアスランに部屋まで案内されると、まずベッドにダイブして、それからプラントの景色を天窓から眺めている。
「プラントはオーブよりもずっと北にありますから・・」
「だから敬語使わなくていいってば!同い年なんだし。」
「ですが・・」
「ほらまた!次使ったら怒るからな!」
窓からくりんと顔をこっちに向けてカガリはアスランを睨み付ける。
「・・わかった」
アスランは、ハア・・とため息をついた。
さっきからカガリのペースに巻き込まれっぱなしだ。
女の子っていうのはもっと大人しくておしとやかなんじゃないのか?
アスランの脳裏には大臣の娘のラクスや召使のメイリンの姿が浮かぶ。
彼女たちはアスランのイメージする女の子像だ。
「まあ、個性っていうのもあるからな・・」
「なんか言ったか?」
「いや」
アスランの苦笑にカガリはふうんと訝しそうに視線をなげたが、再び窓の外を眺める。
確かにカガリはアスランの今まで知ってる少女たちとかけ離れていた。
けれど、不思議とアスランは嫌な気がしなかった。
むしろ・・
「あ、アスラン!お前にプレゼントがあるんだ!」
「俺に?」
うん、と頷いてカガリは天窓から離れると、ごそごそとオーブから持ってきた鞄のなかをあさり始めた。
「はい!これ」
差し出されたのは赤い大きな花だった。
「ハイビスカスっていうんだ!南国にしか咲かないからな。プラントにはないだろう?」
「聞いたことはあるが、確かに実物を見るのは初めてだ」
だろ?と嬉しそうにカガリが笑う。
その笑顔に何故だかアスランの胸がドキっとする。
「ハイビスカスの蜜はとっても甘くて美味しんだぞ!大好きなんだ、私」
「あ・・ありがとう・・」
アスランはそう言っておずおずと花を受け取る。
ハイビスカスからはとてもいい香りがして、これならばカガリの言うとおりきっと蜜も甘いのだろう。
何だ・・頬が熱い・・。
ハイビスカスの香りに当てられたのか・・?
ハイビスカスの香りに包まれて、何故かアスランの頬が熱くなる。
カガリの笑顔を見てから胸のドキドキが止まらないのだ。
俺は一体どうしたんだ?
「アスランもプラントにしか咲かない花、教えてくれよ」
原因不明の熱に飲み込まれ戸惑っていたアスランだが、カガリの言葉にハッと意識がしっかりする。
「プラントにしか咲かない花か・・スノードロップかな・・」
「どんな花なんだ?蜜は美味しいか?」
「白くて可愛らしい花だよ。蜜も甘酸っぱくて美味しい。」
「見てみたいな。アスラン、咲いてる場所に連れて行ってくれ」
カガリが琥珀の瞳を期待に満ちて輝かせるが、アスランは逆に困ったような表情を浮かべる。
「咲いてる場所は分からないな・・行ったことがないから」
「何でだよ?スノードロップの蜜を飲んでるのに何で咲いてる場所が分からないんだ?」
カガリが不思議そうに小首をかしげた。
「自分で蜜を取りにはいかないよ。俺はいつも城に用意されてる蜜を飲むからな。」
「お前・・自分で蜜採らないのか?」
アスランの言葉にカガリが目を丸くする。
「ああ。だって城にあるんだからその必要は・・」
「アスラン!今からスノードロップの蜜を取りに行くぞ!」
不意にカガリがアスランの手を取った。
「え?」
状況が飲み込まずアスランは目を瞬かせる。
「お前、取れたての蜜の味を知らないだろう!新鮮ですっごく美味しんだぞ。それを教えてやる!行くぞ!」
カガリは琥珀の瞳でアスランを軽く睨み付けながらぐいぐいと腕を引っ張った。
「えっ・・ちょ・・カガリ!」
アスランはそのままカガリに引っ張られるように外に出た。
二種類の蝶はそれぞれプラントとオーブという国に分かれて暮らしている。
羽の色は違えど二つの国は友好関係を結んでいて、王族同志も親交が深かった。
「私はカガリ・ユラ・アスハだ!」
「ようこそプラントへ、カガリ姫。私はプラントの皇子、アスラン・ザラと申します」
アスランはカガリの手を取って、手の甲に唇を落とした。
その仕草はまだ10歳だというのに洗練されている。
「カガリだ!」
「え?」
「カガリ姫なんて呼ばなくていいぞ!これからは一緒に暮らすんだからな!」
顔を上げると目の前の金髪の少女はまんえんの笑みを浮かべていた。
「私もお前のことアスランって呼んでいいか?」
「あ・・ああ・・」
アスランはその笑顔にただ圧倒されて、口ごもった返事しかできなかった。
プラントとオーブ。
この二国は親睦を深めるため、交代で王族の子息を互いに留学させていた。
今回はプラントにオーブの王ウズミ・ナラ・アスハの一人娘のカガリがやってくることになった。
期限は十年。
その間カガリはプラントの王族の子息たちと一緒に城で暮らすことになる。
アスランとカガリはそれぞれプラントとオーブの王の一人息子、娘であるので、アスランは父であり国王であるパトリックからカガリ姫には失礼のないようにと何度も言われていた。
だけど・・初めて会った白い蝶の姫はアスランが想像していたイメージとかけ離れていた。
「それにしてもプラントは寒いな~」
天窓から身を乗り出すとカガリぶるりと身体を震わせた。
ここはカガリの私室として宛がわれた、プラント城内で一番日当たりのいい南の角部屋だ。
カガリはアスランに部屋まで案内されると、まずベッドにダイブして、それからプラントの景色を天窓から眺めている。
「プラントはオーブよりもずっと北にありますから・・」
「だから敬語使わなくていいってば!同い年なんだし。」
「ですが・・」
「ほらまた!次使ったら怒るからな!」
窓からくりんと顔をこっちに向けてカガリはアスランを睨み付ける。
「・・わかった」
アスランは、ハア・・とため息をついた。
さっきからカガリのペースに巻き込まれっぱなしだ。
女の子っていうのはもっと大人しくておしとやかなんじゃないのか?
アスランの脳裏には大臣の娘のラクスや召使のメイリンの姿が浮かぶ。
彼女たちはアスランのイメージする女の子像だ。
「まあ、個性っていうのもあるからな・・」
「なんか言ったか?」
「いや」
アスランの苦笑にカガリはふうんと訝しそうに視線をなげたが、再び窓の外を眺める。
確かにカガリはアスランの今まで知ってる少女たちとかけ離れていた。
けれど、不思議とアスランは嫌な気がしなかった。
むしろ・・
「あ、アスラン!お前にプレゼントがあるんだ!」
「俺に?」
うん、と頷いてカガリは天窓から離れると、ごそごそとオーブから持ってきた鞄のなかをあさり始めた。
「はい!これ」
差し出されたのは赤い大きな花だった。
「ハイビスカスっていうんだ!南国にしか咲かないからな。プラントにはないだろう?」
「聞いたことはあるが、確かに実物を見るのは初めてだ」
だろ?と嬉しそうにカガリが笑う。
その笑顔に何故だかアスランの胸がドキっとする。
「ハイビスカスの蜜はとっても甘くて美味しんだぞ!大好きなんだ、私」
「あ・・ありがとう・・」
アスランはそう言っておずおずと花を受け取る。
ハイビスカスからはとてもいい香りがして、これならばカガリの言うとおりきっと蜜も甘いのだろう。
何だ・・頬が熱い・・。
ハイビスカスの香りに当てられたのか・・?
ハイビスカスの香りに包まれて、何故かアスランの頬が熱くなる。
カガリの笑顔を見てから胸のドキドキが止まらないのだ。
俺は一体どうしたんだ?
「アスランもプラントにしか咲かない花、教えてくれよ」
原因不明の熱に飲み込まれ戸惑っていたアスランだが、カガリの言葉にハッと意識がしっかりする。
「プラントにしか咲かない花か・・スノードロップかな・・」
「どんな花なんだ?蜜は美味しいか?」
「白くて可愛らしい花だよ。蜜も甘酸っぱくて美味しい。」
「見てみたいな。アスラン、咲いてる場所に連れて行ってくれ」
カガリが琥珀の瞳を期待に満ちて輝かせるが、アスランは逆に困ったような表情を浮かべる。
「咲いてる場所は分からないな・・行ったことがないから」
「何でだよ?スノードロップの蜜を飲んでるのに何で咲いてる場所が分からないんだ?」
カガリが不思議そうに小首をかしげた。
「自分で蜜を取りにはいかないよ。俺はいつも城に用意されてる蜜を飲むからな。」
「お前・・自分で蜜採らないのか?」
アスランの言葉にカガリが目を丸くする。
「ああ。だって城にあるんだからその必要は・・」
「アスラン!今からスノードロップの蜜を取りに行くぞ!」
不意にカガリがアスランの手を取った。
「え?」
状況が飲み込まずアスランは目を瞬かせる。
「お前、取れたての蜜の味を知らないだろう!新鮮ですっごく美味しんだぞ。それを教えてやる!行くぞ!」
カガリは琥珀の瞳でアスランを軽く睨み付けながらぐいぐいと腕を引っ張った。
「えっ・・ちょ・・カガリ!」
アスランはそのままカガリに引っ張られるように外に出た。