「それにしてもこんな夜中に部屋を抜け出して・・カガリの部屋から俺の部屋は遠いのに」

あれからひと段落して、二人の間のぎすぎすした雰囲気は無くなっていた。

「夜の探検みたいだったぞ・・でも今から部屋に戻るのは面倒くさい。もう眠いし、一緒に寝かせてくれ」

「えっ・・カガリ!!」

動揺するアスランをよそに、カガリはアスランの寝室の扉を開けそのままベッドにダイブした。

「お前のベッド広いんだからいいだろう!」

何回かベッドの上で飛び跳ねてから、カガリは布団にもぐりこむ。

アスランも覚悟を決めてバクバクと煩い心臓を何とか沈めながら、カガリの隣に寝っころがった。

「おやすみ・・アスラン」

カガリはころんとアスランの方に横向きになるとにっこりとほほ笑んだ。
眠さのせいかどこかふにゃんと力の抜けたその笑顔は、まるで子猫のようで。

「おやすみ・・」

大人しくなりかけた心臓がまた暴れだすのをアスランは感じた。









暗闇のなか時計の音がやけに大きく部屋に響いている気がする。
アスランはベッドのなか一人悶々としていた。

(・・・・眠れない)


当たり前だとアスランは小さくため息をついた。
原因は分かり切っている。
カガリがこんな近くにいて、眠れるわけがないのだ。
眠れないのなら眠れないでカガリの可愛い寝顔を一晩中眺めていたいけど、そんなことになったら自分を抑えられない気がする。
何を抑えられないのかと言われれば具体的にはよく解らないけれど、何か色々まずい気がしてアスランはカガリに背中を向けていた。

(シンだ・・シンと一緒に寝ていると思えばいい)

背中を向けていてカガリの顔は見えてないのだから。
アスランはそうやって必死に自分を騙そうとする。
しかし2個下の生意気だが自分には懐いてくる従弟の顔を思い浮かべるも、上手くいかない。

(駄目だ・・シンはこんないい香りしない)

アスランが何回目か分からないため息をついたときだった。

「眠れないのか?」

「カガっ・・起きてたのか?!」

慌ててカガリの方にごろりと寝返りを打つ。
動揺のあまり声がみっとも無く裏返ってしまった。

「うとうとしてたけど・・」

「ごめん・・俺起こしちゃったかな」

「いや・・」

再び訪れる静寂。
話しかけてもいいのか・・でもカガリは眠そうだ・・とアスランは頭のなかでぐるぐる思考を巡らせる。
しかし沈黙を破ったのはカガリだった。

「あのな・・アスラン。大きくなったら私たち、それぞれオーブとプラントの女王と王になるだろう?」

「うん・・」

「オーブとプラントが仲良くやっていくためには、まず私たちが仲良くないといけないと思うんだ」

「カガリ・・」

「だから・・もう喧嘩はよそうな」

「そうだな・・」

アスランは穏やかに微笑んだ。
普段はお転婆で向こう見ずなカガリが、幼いながらもこうして国のことを想っている。
なんだかそれがとても愛おしかった。

「本当はもっといい方法があるんだけど」

それはふと思いついた小さな意地悪。

「何・・が」

カガリが眠そうな琥珀を必死に持ち上げようとするが、上手くいかない。
もう半分眠りかけているのだろう。

「オーブとプラントが今以上に親交を深める為の方法」

「どんな・・方法・・だ?」

眠気との格闘の末、もうカガリの瞼は閉じかかっている。

「カガリにはまだ難しいな」

「何だよ・・子供扱いして・・教えろ・・よ」

そう言って眠りに落ちるカガリをアスランは愛しさをこめて見つめていた。

「10年経ったらちゃんと教えてあげる」

返事がないとわかっていて、アスランは愛しい少女の寝顔にそっと囁く。

「おやすみ・・カガリ」

アスランはカガリの金髪を一房手に取って、それに口付けた。






10年経って、俺たちが20歳になったら、その時は君に・・・。



















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