鎖
「アスラン・・何を・・」
大きく見開かれた琥珀の瞳は困惑と戸惑いで満ちていた。
実際カガリにはアスランの言っている意味がよく理解できなかった。
彼は何か冗談を言っているのか、それとも悪ふざけをしているのだろうか。
きっとそうだ。
そうであって欲しい。
そうでなければ・・。
けれど縋るような琥珀を、翡翠は嘲笑うかのように冷たく拒絶する。
「何って・・そのままの意味だ」
「あっ?!」
戸惑うカガリに気を使うこともせず、アスランはひょいっと荷物のようにカガリを肩に乗せ持ち上げた。
「アスラン!!降ろせよ!!降ろせってばっ・・!」
細身の彼のどこにこんな力があるのだろうかと思うくらい、カガリがいくら肩上で暴れても、アスランはびくともせず、そのまま部屋を突っ切って行く。
そしてたどり着いた先は、一番奥の彼の寝室だ。
「ああっ!!」
ドサリとベッドに投げ出されたカガリが起き上がろうとするより早く、アスランがその華奢な身体の上にのしかかる。
「やめろよ!!どけ!!」
カガリはアスランの下から逃れようともがくも、アスランは体重をかけてあっさりとその抵抗を封じる。
「カガリ・・」
「アスラ・・んんっ」
アスランの整った美しい顔が近づいてきたと感じた瞬間、唇を奪われていた。
「ん・・」
アスランにキスをされている。
あまりのことに、そう認識するまで一瞬の間があいた。
「いやあっ・・!んんっ・・?!んう・・う・・」
その状況に覚醒し、彼の唇から逃れようとしてもすぐにまた捉えられ、悲鳴が漏れ出るのを待ち構えていたように、今度はアスランの舌が侵入する。
咥内を這いずりまわる舌を自らのそれで追い出そうとするも、いとも簡単に絡め取られてしまう。
いつのまにか後頭部を固定されていて、アスランの口づけから逃れるのはもう不可能だった。
「うう・・ううん・・」
(なに・・何だ・・これ・・)
カガリはこのような口づけを知らなかった。
キスとは軽く唇を合わすものだと思っていた。
こんな激しくて、熱い、吐息を奪い取られるような口づけがあるだなんて。
知らず知らずカガリの体温は上がっていき、熱にのまれて頭がぼんやりとしてしまう。
「は・・」
アスランがやっとカガリの唇を解放し、二人の唇をつなぐ銀色の糸がプツンと途切れる。
「何するんだよ・・おま・・え・・」
カガリが息も絶え絶えのなか必死にアスランを睨み付けるが、アスランはそれを気にすることなくカガリの洋服の胸元に手を掛け、一気に引き裂いた。
「いや――――――!!!」
カガリの悲鳴が部屋に響く。
「やめろっ・・この馬鹿っ!!・・・いやあっ!」
必死に身を捩って逃げようとするも、アスランを押しのけようとしていた両腕は一つに纏められて頭上に縫いとめられる。
自分の両手首を左手一つで押さえつけるアスランの力にカガリは身を震わせた。
アスランはいつも優しく穏やかで。
体つきも男性にしては細身でしなやかで。
だから、カガリは知らなかった。
アスランの力がこんなにも強いだなんて。
アスランの身体がこんなにも固くて重いだなんて。
(―――とても、適わない)
そう感じたときには、カガリの身体はもうショーツしか身に着けていなかった。
*