窓に打ち付ける雨の音が酷く耳障りだった。







「お父様が・・死んだ・・」

アスランの私室に呼ばれ、ことの顛末を聞かされたとき、そのあまりの衝撃にカガリは呆然とした。

それはまるで足元が崩れていくような、そんな感覚。

悪い嘘だとも思ったが、アスランの苦しそうな顔と揺れる翡翠の色を見て、これは現実なのだと理解した。

そもそも誠実で優しく不器用な彼が嘘をつくはずもないし、何より彼はカガリを傷つけるようなことは絶対にするはずがないのだ。




どれくらい突っ立っていたかは分からない。

ほんの一瞬かもしれないし、5分以上は経っていたかもしれない。
時間の感覚がなくなっていた。
カガリが認識できたのは、うるさい雨の音と目の前にいる苦しそうなアスランの顔だけだったが。

(現実なんだ、全て)


瞬間、ぼんやりとした頭が一気に覚醒してカガリは踵を返した。



「カガリ!どこに行くんだ!」

ドアノブを掴もうとしたところで、アスランがカガリのもう一方の腕を掴んだ。

「放せ!!私はオーブに帰る!!」

アスランの手を振りほどこうと、カガリは腕を力任せに振り回すが、逆に引き寄せられてしまった。

「何を言っている!危険だっ!今のオーブはセイランに牛耳られているんだぞ!!」

「分かっている!だからセイランから奪い替えすんだ!」

「そんなこと、君にできるわけないだろう!」

政務の経験もなく、まっすぐで純粋なカガリは、思惑や駆け引きが渦巻く政治の世界ではあまりに無力だ。
残酷だけれど、紛れもない事実。
アスランだって本当はこんなこと言いたくはなかった。
カガリのやろうとすることは何でも応援してあげたかった。
だけど今は非常事態なのだ。

「うるさい!!よくもオーブを・・お父様を!!絶対に許さない!!」

それでもカガリは暴れてドアの外に出ようとする。

「カガリ!!落ち着け!!」

「落ち着いていられるか!私はセイランからオーブを取り戻して、戦争なんて馬鹿げことをすぐに辞めさせる!!平和の国オーブが戦争など許すものか!」

「君が帰ったところでもう戦争は止められない・・!」

良くて勝利の女神の象徴として利用されるのが関の山だろう。

「辛いだろうけど我慢するんだ…」

カガリも心の底ではそれが分かっていたのだろう、暴れていた身体からゆっくりと力が抜けていき、その様子にアスランは安心する。

「ほとぼりが冷めるまでプラントにいればいい・・ここは安全だ…」

なだめるようにそう言って、大人しくなったカガリをそっと腕に抱きしめた。




「君は俺が守る」




だから、俺の傍に居て。



決意の強さを表すように、アスランはカガリを抱く腕の力を強めた。
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