青年はベッドの端に腰かけて、ぐったりとシーツに身を預ける少女を切なさのこもった瞳で見下ろしていた。
視線の下の少女は、完全に意識をなくしている。

無理もない。
何時間も情け容赦なく、徹底的に抱かれ続けたのだ。
頬に残る行く筋もの涙の痕が痛々しい。

青年はゆっくりと少女に手を伸ばすと、乱れた髪を梳いて整え、目元に溜まった涙をぬぐってやる。

その手つきは先ほど荒々しく少女を抱いたものとはあまりにもかけ離れていた。

「カガリ・・」

ため息のように少女の名を囁くと、遣り切れない想いが溢れ出て、青年の胸をきつくきつく締め付ける。
その痛みを振り切るように、青年は少女の頬を撫でていた手をそっと放して立ち上がり、豪華なクローゼットを開けると絹でできた繊細な夜着を取り出し、それを少女に着せてやる。

「い・・や・・」

少女に夜着を着せてから、再びベッドに寝かせシーツを掛けてやると、ふいに少女が身じろぎをした。


「カガリ・・?」

気が付いたのだろうかと青年は少女を見やるが、彼女の瞳は閉じられたままだ。
意識は戻っていない。
うなされているのだろうか。

「たすけ・・て・・」

少女は再び苦しそうに囁いて、閉じられた瞼からつうっと一筋の涙がこぼれた。
おそらく眠りに落ちる前のことを夢に見ているのだろう。

少女の声はか細く小さかったけれど、青年の心を深く抉るには十分だった。


「カガリ・・」

青年は再び涙をぬぐおうと少女に手を伸ばす。
しかしその手は震えていて、少女の瞼に触れる手前で止まり、そのままシーツに落ちた。

赦されないと思った。
彼女の苦しみの原因である自分が、彼女の涙をぬぐうなど・・。

「カガリ・・ごめん・・ごめん・・」

青年の翡翠の瞳から溢れ出る涙は、顎をつたって少女の頬にあとからあとから落ちていく。

彼女を傷つけ苦しめることなどしたくない。
誰よりも大切なのに。愛しいのに。
でも、だからこそ、こうするしか他に方法はなかったんだ。

「ごめん・・カガリ・・ごめん・・」

青年の嗚咽は夜の深い闇に飲み込まれ、誰にも届くことはなかった。
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