ホールの控え室には思い思いのドレスとティアラを身にまとった少女たちが集まっていた。
忙しなく髪型を整えていたり、手を握りしめ身を固くしていたり、その様子は様々だが、皆そのときを今か今かと待っている。
赤い髪を綺麗に結い上げ、華やかな水色のドレスを着こなした美少女ももちろんその一人。

「フレイ、化粧直し何回すれば気がすむんだよ」

皆それぞれ支度は自宅でしてきている。
その際に化粧も行っているはずなのだが、この美意識の高い友人は控え室に着いてからずっと鏡とにらめっこをしているのだ。

「満足できるまでに決まっているじゃない」

何回めかのルージュの引き直しをしてから勢いよくフレイは振り返った。

「いい!?今日は人生の一大イベントなのよ!!一生の記念なのよ!!自分を最高の状態に持っていくのは当たり前じゃない!!」

ずいずいと完璧に化粧が施された顔を近づけられて、カガリはただただフレイの迫力に圧倒される。

「わ・・分かったよ・・」

カガリの返答にフレイは満足そうな顔をして、また鏡に向き直った。
今度は、ティアラの位置を調節している。

(全く、女の子ってのは大変だな・・)

カガリがふうっとため息をつくと同時に後ろから声を掛けられた。

「カガリさん、こんばんは」

「ラクス、遅かったな」

「ええ。準備に時間がかかってしまって。皆様があれもこれもして下さろうとするので、時間ギリギリになってしまいましたわ」

にっこりほほ笑むラクスはいつだって綺麗だけれど、今日はまた一段と美しい。

「紫色のドレスか。すごくラクスに似合ってるな。お姫様みたいだ」

「まあ、ありがとうございます。でも本物のお姫様にそう言われると、何だか変な感じがしますわ」

本物のお姫様。
カガリは自分がお姫様だと言われるのがあまり好きではなかった。
男みたいな自分には、似つかわしくない。
お姫様っていうのは、ラクスみたいな可愛くてお上品な女の子がふさわしいのだ。

「カガリさんも若草色のドレスがとてもよく似合っておりますわ」

「ドレスなんて着たくないさ。こんなときでもなきゃ」

大げさにため息をついて、カガリはドレスの裾をつまんだ。
今日の為にあつらえた若草色のドレスは胸元にオレンジ色の花と長いリボンが付いており、膝から下はライトの下だと少し透ける素材で作られたシンプルながらも美しいものだった。

「まあ、折角ドレスがお似合いなのですから、もっと着ればよろしいのに」

「私にドレスが似合うわけないだろ。それにこんなぴらぴらしたもの動きにくいだけだ」

「まあ、馬子にも衣装ってわけよ」

二人の会話にフレイが割り込んだとき、出席者は控え室からホールの袖に移動するようにと案内係から指示が入った。
社交界の一大イベント、デビュタントボールが幕を開ける。












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