鎖
重厚なデスクを挟んで、パトリックとアスランが向かい合う。
この親子は普段ほとんど顔を合わすことがなかった。
国王であるパトリックは政務に忙しいし、家族の時間を大切にしようというような考えの持ち主でもない。
昔は父に構ってもらいたい、寂しいと思っていたアスランも、今では割り切っていた。
「アスラン・・明日の準備はできたのか?」
椅子に腰かけ、デスクに肘をついた姿勢でパトリックは尋ねた。
「はい。先ほどリハーサルを終えました」
「そうか」
この人が、自分の社交界デビューのことなど気にするはずがない。
パトリックが興味なさそうに答えるのを見て、アスランは自分の楽天的な予想がやはり外れたのを悟った。
では、一体なんの話なのだろうか。
(やはり婚姻についてだろうか…)
返事をしたきり黙りこくったパトリックに、アスランは軽く身構えた。
パトリックは身動きせずに、しばらく難しそうな顔をしていたが、やがて重々しく口を開いた。
「オーブで不審な動きがある」
「え・・?」
あまりに予想外の話で、一瞬アスランは意味を汲み取ることができなかった。
オーブ・・白い蝶の国。
カガリの愛する国。
(その国で、不審な動き・・?)
固まったアスランを無視し、畳み掛けるようにパトリックは続けた。
「オーブでクーデターを起こそうという計画があるらしい」
「ウズミ王のもとで、そんなことは・・」
アスランの脳裏にカガリの父で、オーブ国王のウズミの姿がよぎる。
彼がいる限り、クーデタなど成功するわけがない。
「その一派には王族や有力貴族がいるという話だ」
「な・・・」
それならば、クーデターの動きはかなり大きまもののはず。
ウズミ王でもその波を止めるのは容易ではないだろう。
「何故・・あの平和な国でクーデターなど」
「平和・・。それが気に入らん連中もいるのだろう。それとウズミ王の人気に対するやっかみも多いのだろうな」
「・・・」
アスランは唇を噛んだ。
自分の利権ばかりを求める連中はどこにでもいる。
「とは言っても、現状ではまだ噂にすぎん。ウズミ王が尻尾を掴もうとしているが。」
「父上、プラントは・・」
「いくら友好国であろうと、ただの噂で我が国が他国に介入するわけにはいかん」
しかし、確証のない噂だったらプラントまで話は回ってこないだろう。
「このこと、アスハの姫には・・」
「言いません」
アスランは即答した。
言えるはずがなかった。
カガリはウズミ王を、オーブを心の底から愛している。
そんな彼女がこのことを知ったらと思うと、アスランの胸に警鐘が鳴る。
「分かった。その件はお前に任せる」
パトリックはアスランの反応にいささか驚いたようだが、すぐに重々しく息を吐いてから、胸の前で組んでいた手を外し、デスクに置かれていた書類を掴んだ。
「この件はくれぐれも内密にな」
「はい」
話はお終いという風に書類に目を落としたパトリックに一礼し、アスランは部屋を出た。
外ではドアのところで待機していたレイが、意味ありげな視線を送ってきたが、それに意識を向けることもなく私室へ向かった。
パトリックに告げられたことで頭がいっぱいで何も考えられなかった。
否、考えたくなかった。
ただただ、クーデターなど起こるはずはないと信じた。
ウズミ王がいれば大丈夫だ、彼ならクーデターを止められると、何度も自分に言い聞かせながら。
この親子は普段ほとんど顔を合わすことがなかった。
国王であるパトリックは政務に忙しいし、家族の時間を大切にしようというような考えの持ち主でもない。
昔は父に構ってもらいたい、寂しいと思っていたアスランも、今では割り切っていた。
「アスラン・・明日の準備はできたのか?」
椅子に腰かけ、デスクに肘をついた姿勢でパトリックは尋ねた。
「はい。先ほどリハーサルを終えました」
「そうか」
この人が、自分の社交界デビューのことなど気にするはずがない。
パトリックが興味なさそうに答えるのを見て、アスランは自分の楽天的な予想がやはり外れたのを悟った。
では、一体なんの話なのだろうか。
(やはり婚姻についてだろうか…)
返事をしたきり黙りこくったパトリックに、アスランは軽く身構えた。
パトリックは身動きせずに、しばらく難しそうな顔をしていたが、やがて重々しく口を開いた。
「オーブで不審な動きがある」
「え・・?」
あまりに予想外の話で、一瞬アスランは意味を汲み取ることができなかった。
オーブ・・白い蝶の国。
カガリの愛する国。
(その国で、不審な動き・・?)
固まったアスランを無視し、畳み掛けるようにパトリックは続けた。
「オーブでクーデターを起こそうという計画があるらしい」
「ウズミ王のもとで、そんなことは・・」
アスランの脳裏にカガリの父で、オーブ国王のウズミの姿がよぎる。
彼がいる限り、クーデタなど成功するわけがない。
「その一派には王族や有力貴族がいるという話だ」
「な・・・」
それならば、クーデターの動きはかなり大きまもののはず。
ウズミ王でもその波を止めるのは容易ではないだろう。
「何故・・あの平和な国でクーデターなど」
「平和・・。それが気に入らん連中もいるのだろう。それとウズミ王の人気に対するやっかみも多いのだろうな」
「・・・」
アスランは唇を噛んだ。
自分の利権ばかりを求める連中はどこにでもいる。
「とは言っても、現状ではまだ噂にすぎん。ウズミ王が尻尾を掴もうとしているが。」
「父上、プラントは・・」
「いくら友好国であろうと、ただの噂で我が国が他国に介入するわけにはいかん」
しかし、確証のない噂だったらプラントまで話は回ってこないだろう。
「このこと、アスハの姫には・・」
「言いません」
アスランは即答した。
言えるはずがなかった。
カガリはウズミ王を、オーブを心の底から愛している。
そんな彼女がこのことを知ったらと思うと、アスランの胸に警鐘が鳴る。
「分かった。その件はお前に任せる」
パトリックはアスランの反応にいささか驚いたようだが、すぐに重々しく息を吐いてから、胸の前で組んでいた手を外し、デスクに置かれていた書類を掴んだ。
「この件はくれぐれも内密にな」
「はい」
話はお終いという風に書類に目を落としたパトリックに一礼し、アスランは部屋を出た。
外ではドアのところで待機していたレイが、意味ありげな視線を送ってきたが、それに意識を向けることもなく私室へ向かった。
パトリックに告げられたことで頭がいっぱいで何も考えられなかった。
否、考えたくなかった。
ただただ、クーデターなど起こるはずはないと信じた。
ウズミ王がいれば大丈夫だ、彼ならクーデターを止められると、何度も自分に言い聞かせながら。