第二夜

こんな風に、この日を迎えるだなんて、思いもしなかった







結婚前夜 第二夜








「はあ・・・」

テーブルに肘をつき空を眺めながら、カガリはため息をついた。
その目線の先、澄んだ青い空はプラントの人口空。
調整され管理されて映し出された、作り物の空だ。

(オーブの空とは違うな)

カガリが生まれ育った常夏の国オーブの、どこまでも明るく青い空がなんだか懐かしく、カガリは再びため息をついた。
元来積極的なカガリは適応能力に優れており、ホームシックなどとは無縁の性分だ。
長期間外交でオーブを離れても、苦に思うことは今まで全くなかった。
むしろもとからその国に居たのではないかと思うくらい、滞在地に馴染んでしまうのがカガリだった。
それなのにプラントに来てから三カ月、カガリはため息をつくことが多くなった。
原因は自分でも分かっている。
カガリの婚約者で、将来の夫であるアスラン・ザラだ。
半年前、結婚相手が決まったと、父であるウズミに突然告げられた。
驚いたというよりも、ついに来たなという気持ちのほうが大きかった。
アスハの姫である自分に、相手を選ぶ権利など無いことは幼いころから実感していたからだ。
しかしカガリはその境遇を悲観していたわけではなかった。
自分の結婚が愛するオーブの為になるのだったら、それはとても光栄なことだと思っていたし、何より政略結婚だからといって幸せになれないなんてことはないと思っていた。
数百年前には政略結婚で若い姫が三十や四十以上も年の離れた男の元へ嫁がされていたが、現代ではそこまで露骨なことはしない。
政略結婚といえど周りも結婚する者たちのことを考え、なるべく年の近い者同士を組み合わせる。
そのためきっかけは政治的なものでも、夫婦として愛を育むことはできるとカガリは考えていたし、事実政略結婚でありながら仲睦まじい衣夫婦はたくさんいた。







「初めまして。アスラン・ザラと申します」

アスランを初めて見たとき、小さいころに読んだ絵本に出てくる王子様のようだと思った。
濃紺の髪に、深いエメラルドの瞳。
整った端正な顔。
上品な身のこなし。
聞けば士官学校をトップの成績で卒業し、ザフトのトップエリートである赤服らしい。

(なんか、すっごいお坊ちゃんだなあ・・・)

乱暴な立ち振る舞いが多く、男のようだと言われる自分に、彼のような人が結婚を承諾してくれるだろうか。
いや、この結婚はもう決定したようなものだから、しないわけにはいかないけれど。

(私みたいなのが相手で、がっかりしてるんじゃないのか・・)

しかしカガリの心配は杞憂に終わった。
アスランが穏やかに微笑んだからだ。
ふんわりと。

「これから宜しくお願いします、カガリ嬢」

その笑みを見たとき、カガリの胸が知らず高鳴った。
それは男のようだと言われ続けたカガリが、産まれて初めて恋の入口に立った合図だった。
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