第一夜

キラはラクスに気が付くと、ゆっくりとアスラン達のもとへやってきた。

「アスラン、カガリさん、紹介致しますわ。彼がキラです」

「初めまして、キラ・ヤマトです」

紫色の瞳を人懐っこく細めて、キラは手を差し出してきた。

「初めまして。アスラン・ザラです」

アスランも端正な顔に笑みを浮かべ、その手を握ったが、心のなかでは嫉妬の嵐が巻き起こっていた。

(コイツが・・コイツがキラ・・・俺からラクスを奪った、キラ・ヤマト)

ラクスとの幸せな未来を奪った張本人。
憎悪と怒りを、胸のなかで何度も何度も繰り返しぶつけた男だ。

(お前の幸せは、俺の不幸を下敷きにして出来ているんだ・・・分かっているのか)

どれほどキラを憎んでも、幸か不幸か、アスランは表情を隠すのが上手い。
キラはアスランの心情に全く気が付くことなく、今度はカガリに視線を向けた。

「久しぶりだね、カガリ」

「ああ、キラ!電話はしょっちゅうだけど、会うのは二か月ぶりだな」

(・・・・・え?)

まるで旧来の友人のように、親密な空気がキラとカガリから醸し出される。

(何故だ?二人は初対面じゃないのか?)

「あらあら?お二人はお知り合いなのですか?」

アスランと全く同じ疑問を、ラクスも持ったようだった。

「う・・うん・・」

アスランとラクスに凝視されて、カガリがもじもじと小さくなり、ちらりとキラを見やった。

「キラ・・言ってもいいか?」

「うん。だって二人は僕たちの家族になるんだ。特別だよ」

「そっか・・」

キラが安心させるようにカガリに笑いかける。
ラクスとアスランを交互に見て、カガリは思い切って言った。

「実は、私とキラは双子なんだ」

キラの言葉に、ラクスは二、三回睫をしばたかせた。

「あらあら・・そういうことでしたの」

「驚かないのか?」

打ち明けたことの重大性に比べて、ラクスの反応は大分薄いように思えた。

「ええ・・言われてみれば確かに、お二人の雰囲気は似ていますもの」

「そうか?私はキラみたいに泣き虫じゃないぞ!」

「カガリったら・・」

思わずキラが苦笑する。

「でも、カガリからプラントで初めて出来た友達の名前がラクスって聞いたときは、びっくりしたよ」

「私もまさか双子の弟の恋人がラクスなんて、思いもしなかった」

「何か運命めいたものを感じますわ、ねえ、アスラン」

「ええ・・こんな偶然あるんですね」

和気藹々とする三人を、どこか遠くで眺めていたアスランだったが、それに悟られないよう自然に応える。

(カガリとキラは双子・・・)

その事実が次第に、憎悪とともに、ふつふつと胸の奥から湧き出てくる。
ラクスをアスランから奪ったキラ。
そしてカガリの存在のせいで、アスランはしたくもない結婚をする羽目になった。
憎悪の全てをぶつけていた二人が、双子だった。
憎むべき、遺伝子を持った双子。
それは確かに運命かもしれなかった。
アスランの心情を知る由もなく、キラは紫の瞳を再びアスランに向けた。

「アスラン・・・カガリをよろしくね」

その瞳に溢れる慈愛で、いかにキラがカガリを大切に思っているのか分かる。
だからこそ、アスランは深く感情をこめて頷いた。

「ああ」

キラの隣に立つ、桃色の髪の少女のことを想いながら。
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