第一夜
「ラクス!来てくれたのなら、どうして私のとこにあ来ないんだよ」
二人分の視線に気が付いたらしく、友人との会話を終わらせると、カガリはラクスとアスランのもとへやってきた。
常日頃はボーイッシュな装いが多いカガリも、今日は緑色のドレスを纏っており、その可愛らしい姿は招待客の目を楽しませていた。
「だってカガリさんは今日の主役ですもの。わたくしが独り占めするわけにはまいりませんわ」
「主役って、辞めろよ。恥ずかしいだろ」
「あら、本当のことですわ。そのドレスもよくお似合いで、とても素敵ですわ」
「こんなの窮屈なだけじゃないか。私には似合わないし、ラクスのドレス姿の方がよっぽど可愛い」
ドレスを摘まんで溜息をつくカガリに、アスランは内心同意した。
(本当に・・・ラクスのほうが、よっぽど洗練されている)
今日のラクスは水色のドレスを纏い、その美しさは妖精のようだった。
可愛らしくあどけない雰囲気なのに、そこはかとなくただよってくる気品。
選ばれたものしか持つことのできない、天性の気品をラクスは持っている。
(本当ならラクスと二人並んで招待客に挨拶をしているはずだったのに・・・)
アスランは不自然にならないように加減しながら、ラクスを見つめた。
ラクスから婚約破棄を告げられたあの日から、ラクスへの恋心は増す一方だった。
それは、新たな婚約者として、カガリを紹介されてからも変わることはなかった。
「そうだアスラン!お前のアカデミー時代の教官にまだ挨拶してなかった」
先ほどからアスランとカガリは二人の恩人や知人に挨拶周りをしている。
アスランがラクスと二人っきりになれたのは、挨拶に一段落ついたなかでの貴重な時間でのことだった。
「ああ、そうだったな」
カガリに返事をするアスランは穏やかで、二人は初々しいカップルに見える。
けれども、アスランの心情は今の現状とは正反対だった。
(どうして俺がカガリと結婚しなければならないんだ・・・)
オーブから遥々やってきたカガリと対面しても、アスランは全く彼女に心惹かれることはなかった。
オーブの姫にも関わらず気品というものが無く、がさつで短絡的思考な少女だと思った。
婚約の為、カガリがプラントに移住してきても、アスランは仕事を理由にカガリとほとんど会おうとはしなかった。
もとから愛せる気もしなかったし、愛す気もなかった。
(俺の愛する人はラクスだと、もう決まっているんだ・・・)
けれども聡明で理性的なアスランは、それを態度に出すことはしなかった。
胸に秘めた想いを、暴かれるわけにはいかない。
そんなことになったら、ラクスに迷惑が掛かる。
だからアスランは、あくまでも紳士的にカガリに接した。
それはカガリと自分以外の人間を欺く為の仮面だった。
「あら、二人ともお待ちくださいな」
折角ラクスと二人でいられたのに、またカガリと挨拶周りか。
そんな苦々しい気分を飲み込んで、カガリと二人、ラクスに背を向けたアスランだったが、不意にラクスに呼び止められた。
「どうしたんだ、ラクス?」
もしかしてと、アスランの胸に淡い希望が宿る。
もしかしてラクスも、もう少し自分と一緒に居たいと思ってくれているのでは・・・。
それがどんなに滑稽で望みがないと分かっていても、少しでも期待してしまうのは、恋をしている人間の悲しい性なのだろうか。
けれども、やはりアスランの期待は最悪な形で裏切られた。
「キラが来ましたわ。是非お二人に紹介させて下さいな」