結婚前夜 【CE71】

響き渡る悲鳴。
パニックに陥る人々。
その騒ぎの中心で、アスランはラクスを守るように抱きしめていた。
ラクスは無事だった。
寸でのところで、アスランに助けられたのだ。
アスランはラクスの身体を抱いて、振りおろされる刃を躱した。
体勢を立て直した男は再度二人に襲いかかってきたが、すぐにイザークとディアッカに取り押さえられる。
連行される際に喚き散らしていた言葉から、男はラクスの熱烈なファンのようだった。
どうやら、このたびの熱愛報道が許せなかったらしい。
どこからか今日のことを嗅ぎ付け、招待客のフリをしてやってきたのだろう。
政治的な要素は何もない、ただの個人的恨みからの犯行のようだった。


「大丈夫ですか、ラクス様!!」

「ラクス様!!お怪我は!!」

唖然としていた人々が徐々に自分を取り戻し、命を狙われたプラントの歌姫の周りに集まってくる。
大勢のギャラリーに囲まれても尚、ラクスはアスランの胸に顔を埋めたままだった。

「ラクス・・・大丈夫ですか」

ラクスを抱きしめたままのアスランが案じるように小さく尋ねると、彼女はようやく顔をあげる。
ただでさえ透けるように白い彼女の顔は蒼白で、細い肩は小さく震えていた。

「ええ・・・大丈夫ですわ・・・。アスラン、有難う・・・」

返ってきたのは、今にも消えてしまいそうな儚い声。

「ラクス、立てますか」

「ええ・・・」

そう言って立ち上がろうとするラクスの身体を、アスランは支えてやる。
いつもおっとりとした笑みを浮かべ、小さなことでは動じない彼女が、こんなにも弱っている。
俺の愛しい人が、こんなにも打ちひしがれている。
そう思ったなら、居てもたってもいられなかった。

「アスラン、ラクス・・・どうやら大丈夫か?まさか、こんなことが・・・」

「カガリ!」

アスラン達を取り囲む観衆の中から現れたカガリが何か言い終わる前に、アスランは彼女の名を呼んだ。

「ラクスは今日はもう帰ったほうがいい。俺が送っていく。構わないか?」

「え・・・」

「キラがいないし、クライン邸の場所を知っているのは俺だけだ。こんな状態のラクスを一人、ハイヤーに乗せる訳にはいかない」

事件のショックからなのか、どこか反応の鈍いカガリに、アスランが畳み掛けるように言うと、彼女はぎこちなく頷いた。
やはり未だ動揺しているのか。

「あ、ああ・・・そう、だな・・・」

「だから悪いけど・・・今日は一人で帰ってくれるか?ラクスを送り帰して、すぐにこっちに戻ってこれるか分からないから」

「も、もちろんいいぞ。送っていってやれよ。私はハイヤーを呼ぶから大丈夫だ。ラクスのこと気を付けてやれよ!」

カガリは話しているうちに落ち着いてきたのか、今度は大きく頷いた。
いつも通りの笑顔と一緒に。




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