第四夜
「アスランの?」
パトリックは怪訝そうに聞き返した。
「はい。おじ様は、何故アスランとの時間をお作りにならないのですか?」
カガリはしっかりと未来の義父を琥珀の目に見据え、はっきりとした声で言った。
「折角休暇がかぶったんです。こんなこと滅多にないことですから、もっとアスランとの時間を作ってあげてください」
カガリの訴えにパトリックは一瞬面食らったようだったが、すぐにカガリの言いたいことが掴めたようだった。
気難しい表情で、子供の戯れとばかりにカガリの訴えを退ける。
「気遣ってくれるのは嬉しいがね。儂もアスランも多忙なのだ。それにアスランももう子供ではない。今更家族団らんの時間など必要ない」
「そんなことありません!家族の絆を深めるのに、子供も大人も関係ありません」
「アスランは、そんなものを求めるような子ではないのだ」
「いいえ!それは、勝手におじ様がそう思っているだけです」
パトリックだけではない。
きっとアスラン自身もそう思い込もうとしているのだ。
寂しさから顏を背けるために。
「・・・アスランは優秀な人ですが、本当はとても不器用な人だと思うんです」
初めは、ザフトのトップエリートを絵に描いたような人だと思った。
優秀で非の打ちどころのない、完璧な人だと。
だけど、彼を見ていくうちにそうではないのだとカガリは気が付いた。
「アスランは自分の感情を上手く出せない・・・出したらいけないと思っていて、無意識に他人との壁を作ってしまうんです」
柔らかな笑みを浮かべていても、見えない壁がいつもアスランを囲んでいる。
アスラン自身が無意識に造りだした壁だ。
自分の感情を内に隠し、他人に心を開かないことで造りだした壁は、透明なのに固く厚く、とても強固で。
長い年月、孤独に生きてきたことの証だ。
恐らく、今よりもずっと幼いころから。
(アスランはお父様に褒められたことはあるのだろうか・・)
きっとその壁は、幼いアスランにとって鎧だったのだろう。
母を亡くし、父に構ってもらえず、押し寄せてくる寂しさから守るための。
けれどその壁は、アスランの心を守ったけれど、同時にアスランを孤独にした。
(アスランを見ていると、いつも寂しそうで・・・)
いつか壊れてしまいそうだった。
外面の完璧さと内面の脆さが両極端で、とても危なっかしく感じる。
だから、放っておけないのだ。
何とかしてあげたいと思うのだ。
今までは、アスランが他人に心を開かない理由が分からなかったけれど。
今なら分かる。
その根本な原因は、きっと。
「父親だったら、そのことに気が付いてあげてください!」
寂しい家庭環境なのだと。
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