第三夜
気にせず通り過ぎてしまえば良かったのに、なぜだか電子パーツから目が離せなかった。
ざわりと胸が騒いだのだ。
何か予感めいたものを感じながら、カガリは尋ねずにはいられなかった。
「あれは?」
「ああ、電子工作用の部品だよ」
もう会話は終わりだというように、アスランの返事はそっけないものだった。
(電子工作・・・)
カガリの頭には、親友が大切そうに持ち歩いている、丸いペットロボが浮かんだ。
―――ハロ!ラクス!
「もしかして、ラクスのハロ、アスランが作ったのか?」
「ああ・・まあ・・」
カガリの質問に、アスランは気まずそうに頷いた。
「そっか・・」
頷きながら、アスランのぎこちない返事がカガリの胸にゆっくりと染み入ってくる。
(そっか・・・)
アスランは決して他人を受け入れない人だと思っていた。
カガリ以外の人にも、カガリに対するものと同じような態度を取るのだと、勝手に信じ込んでいた。
けれどそれは、能天気な思い込みだったのかもしれない。
(ラクスは婚約者だったんだ・・だからペットロボをプレゼントするのは当たり前だ・・)
婚約者にプレゼントを贈るのは、当たり前。
そう自分に言い聞かせても、どこか冷静な自分がそれは違うと告げる。
――じゃあアスランが私ににプレゼントをくれると思うか?
そんな問いが点滅する。
(くれない・・絶対。傍にいることだって嫌がるアスランが、私にプレゼントなんてくれるはずがない)
悲しいことに、それは確信だった。
(でも、でも、ラクスとは12歳のころからの許嫁だったんだ。急に婚約が決まったばかりの私とは違う)
5年間という年月の重み。
ラクスと自分との違いを、カガリは無理やりそこに見出した。
苦し紛れの逃避だったが、胸に受けた衝撃と向き合う気力はなく、過ごした年月の違いに縋りつくしかなかった。
「そっか!羨ましいな!」
声が震えないよう、心の動揺を見破られないよう、カガリは明るい声を出すのに、全神経を集中させた。
本当は分かっている。
義務以外で、アスランがカガリにプレゼントをくれることなど、決してないということを。
それでも、言わずにはいられなかった。
「私もいつか欲しいな!ペットロボ!」
あくまでも、今ふと思いついたように明るくさり気なく、本当は心の内でどれほどそれを切望しているのか、決して表には出さないように。
―――ペットロボが欲しい?
どの口が、そんなことを言うのかとアスランは思った。
(ラクスだからこそ、贈っていたのに・・)
大切な許嫁だったラクスだからこそ。
そのラクスを奪ったのは、カガリの双子のきょうだいであるキラで、ラクスを取り返す機会を奪ったのはカガリなのに。
アスランの幸せを奪った張本人が、一緒に映画が見たいだの、ケバブを食べたいだの、挙句の果てにペットロボが欲しいだの好き勝手なことばかり言う。
カガリの行動に、腹が立ってしかたがない。
ザフトにいきなりやってきただけでも驚いたのに、ザラ邸にまで押しかけてきて、今は何故かこうして自分の私室に居る。
(なんだんだ、一体・・)
カガリの破天荒さに、振り回される。
大人しくしてくれてさえいれば、アスランも穏やかな婚約者の仮面をかぶったままでいられるのに。
カガリの前では、演技が続かない。
(本当に、面倒だ・・)
こんな女にペットロボなど造りたいとも思わなかったし、死んでも造りたくなかった。
「・・・最近は全然造っていないから、もう造り方を忘れたよ。ペットロボが欲しいのなら、店で買ったほうがいい。手製よりもずっと高性能なものが手に入る」
「そっ・・か」
渦巻く黒い感情を腹の下に隠して、アスランが穏便に言うと、カガリは目を伏せて素直に頷いた。
「じゃっ、いくな!ごめん、休暇の邪魔して」
言いながら、カガリがパタパタと部屋を出ていく。
急に静かになる部屋は、まるで嵐が去ったあとのようだった。
*
ざわりと胸が騒いだのだ。
何か予感めいたものを感じながら、カガリは尋ねずにはいられなかった。
「あれは?」
「ああ、電子工作用の部品だよ」
もう会話は終わりだというように、アスランの返事はそっけないものだった。
(電子工作・・・)
カガリの頭には、親友が大切そうに持ち歩いている、丸いペットロボが浮かんだ。
―――ハロ!ラクス!
「もしかして、ラクスのハロ、アスランが作ったのか?」
「ああ・・まあ・・」
カガリの質問に、アスランは気まずそうに頷いた。
「そっか・・」
頷きながら、アスランのぎこちない返事がカガリの胸にゆっくりと染み入ってくる。
(そっか・・・)
アスランは決して他人を受け入れない人だと思っていた。
カガリ以外の人にも、カガリに対するものと同じような態度を取るのだと、勝手に信じ込んでいた。
けれどそれは、能天気な思い込みだったのかもしれない。
(ラクスは婚約者だったんだ・・だからペットロボをプレゼントするのは当たり前だ・・)
婚約者にプレゼントを贈るのは、当たり前。
そう自分に言い聞かせても、どこか冷静な自分がそれは違うと告げる。
――じゃあアスランが私ににプレゼントをくれると思うか?
そんな問いが点滅する。
(くれない・・絶対。傍にいることだって嫌がるアスランが、私にプレゼントなんてくれるはずがない)
悲しいことに、それは確信だった。
(でも、でも、ラクスとは12歳のころからの許嫁だったんだ。急に婚約が決まったばかりの私とは違う)
5年間という年月の重み。
ラクスと自分との違いを、カガリは無理やりそこに見出した。
苦し紛れの逃避だったが、胸に受けた衝撃と向き合う気力はなく、過ごした年月の違いに縋りつくしかなかった。
「そっか!羨ましいな!」
声が震えないよう、心の動揺を見破られないよう、カガリは明るい声を出すのに、全神経を集中させた。
本当は分かっている。
義務以外で、アスランがカガリにプレゼントをくれることなど、決してないということを。
それでも、言わずにはいられなかった。
「私もいつか欲しいな!ペットロボ!」
あくまでも、今ふと思いついたように明るくさり気なく、本当は心の内でどれほどそれを切望しているのか、決して表には出さないように。
―――ペットロボが欲しい?
どの口が、そんなことを言うのかとアスランは思った。
(ラクスだからこそ、贈っていたのに・・)
大切な許嫁だったラクスだからこそ。
そのラクスを奪ったのは、カガリの双子のきょうだいであるキラで、ラクスを取り返す機会を奪ったのはカガリなのに。
アスランの幸せを奪った張本人が、一緒に映画が見たいだの、ケバブを食べたいだの、挙句の果てにペットロボが欲しいだの好き勝手なことばかり言う。
カガリの行動に、腹が立ってしかたがない。
ザフトにいきなりやってきただけでも驚いたのに、ザラ邸にまで押しかけてきて、今は何故かこうして自分の私室に居る。
(なんだんだ、一体・・)
カガリの破天荒さに、振り回される。
大人しくしてくれてさえいれば、アスランも穏やかな婚約者の仮面をかぶったままでいられるのに。
カガリの前では、演技が続かない。
(本当に、面倒だ・・)
こんな女にペットロボなど造りたいとも思わなかったし、死んでも造りたくなかった。
「・・・最近は全然造っていないから、もう造り方を忘れたよ。ペットロボが欲しいのなら、店で買ったほうがいい。手製よりもずっと高性能なものが手に入る」
「そっ・・か」
渦巻く黒い感情を腹の下に隠して、アスランが穏便に言うと、カガリは目を伏せて素直に頷いた。
「じゃっ、いくな!ごめん、休暇の邪魔して」
言いながら、カガリがパタパタと部屋を出ていく。
急に静かになる部屋は、まるで嵐が去ったあとのようだった。
*