第三夜
初めて入ったアスランの部屋は、予想通り、シンプルで無機質だった。
「何してたんだ」
「いや・・特に何も」
ベッドに腰掛けたアスランにそう尋ねても、返ってきたのは話の広げようもない簡易な答え。
「そっか・・のんびりできてるのなら、いいんだけど」
部屋に満ちた重ぐるしい空気を紛らわしたくて、カガリは明るい声でそう言ったのだが、それきり会話が途絶えてしまう。
何か話さないとと思えば思う程、鉛を呑んだ様に声が出ない。
(どうしよう・・・)
カガリが黙ったままでいると、アスランが重たい口を開いた。
「・・・カガリ、俺に何か用か?」
良いように言えば困ったような、悪く言えば迷惑そうな言い方だった。
不穏な空気を察知したカガリは、慌てて取り繕う様に両手を振った。
「いや、特に用があるわけじゃないんだけど、お前が何してるのかと思ってさ」
「この通りくつろいでいるから、心配はいらないよ」
だから出て行ってくれないかと、アスランが暗にそう言っているのは、カガリにも伝わった。
部屋に満ちる空気は張りつめ、ピリピリとカガリの肌を差す。
この部屋に存在するカガリ以外のもの全てが、カガリを部屋から排除したがっているような、そんな錯覚を覚え、居心地の悪さに息が苦しくなる。
しかしそれでも、カガリは逃げ出さなかった。
アスランに疎まれていることは百も承知で、この部屋の扉を叩いたのだ。
「アスラン、街に行かないか?」
一瞬息を止めてから、ありったけの勇気を振り絞り、カガリは唐突に切り出した。
この部屋の空気にそぐわない明るい声を無理やり出したので、それは少し震え、掠れていたかもしれない。
「え?」
「えっと・・!題名忘れちゃったけど、プラントで今凄く人気のある映画があって、地球ではやってなかったし、それが見たいんだ!近くに水族館もあるし!あと、美味しいケバブ屋さん見つけたいんだ。私ケバブが大好物だから」
まるでアスランに拒否する間を与えないようにするかとでもいうように、カガリは早口で捲し立てた。
アスランが休暇に入ったら、プラントも街を二人で回りたいとずっと思っていたのだ。
断られると確信していても、誘わずにはいられなかった。
「・・・悪いが、俺は人混みが苦手なんだ。友達と行ってくれないか」
しかし、あくまでも軽く、でも本当はありったけの勇気を振り絞って口にしたカガリの提案は、いとも容易く拒絶された。
「そういうのは、女友達とのほうが楽しいだろう」
(違う・・・!)
アスランの言葉を、カガリは即座に否定した。
映画とかケバブとか、そんなのはただの口実だ。
「私はアスランと行きたいんだ・・・」
映画が見たいのではない。
ケバブが食べたいのでもない。
ただ、アスランと二人で居たいのだ。
二人で居られるのなら、別に街に行かなくても、ザラ邸に居たっていいのだ。
だから、アスランじゃなきゃ意味がないのだ。
「アスランと他愛もない話をしながら、街をブラブラ歩きたいんだ・・」
「俺と一緒に居ても、カガリはつまらないよ」
カガリの懇願を、しかしアスランは一蹴した。
「そんなこと・・!」
「悪いけど、俺は一人が好きなんだ。正直言って、街に出るのは煩わしいんだ」
「でもお前いつも基地の中にいるだろ。折角の休暇なんだから、たまには街で買い物してみたら楽しいかもしれないじゃないか。水族館とか動物園とか行ってみたりさ」
「好きじゃないと言っているだろう。君の価値観を俺に押し付けないでくれないか、頼むから」
「ご・・ごめん・・」
今までやんわりとしか出していなかったアスランの迷惑そうなそぶりが一気に濃くなって、カガリは慌てて謝った。
「俺のほうこそ、すまないな」
「いや・・・」
アスランも謝ってくれたが、だからといって今後カガリに付き合ってくれる気は一切ない、形だけの謝罪だった。
(だったら、はっきり嫌だって言ってくれたほうがよっぽどいい・・)
打ちひしがれたカガリが部屋を出ていこうとしたとき、ふと棚に積まれた金属のようなパーツが目に入った。
「何してたんだ」
「いや・・特に何も」
ベッドに腰掛けたアスランにそう尋ねても、返ってきたのは話の広げようもない簡易な答え。
「そっか・・のんびりできてるのなら、いいんだけど」
部屋に満ちた重ぐるしい空気を紛らわしたくて、カガリは明るい声でそう言ったのだが、それきり会話が途絶えてしまう。
何か話さないとと思えば思う程、鉛を呑んだ様に声が出ない。
(どうしよう・・・)
カガリが黙ったままでいると、アスランが重たい口を開いた。
「・・・カガリ、俺に何か用か?」
良いように言えば困ったような、悪く言えば迷惑そうな言い方だった。
不穏な空気を察知したカガリは、慌てて取り繕う様に両手を振った。
「いや、特に用があるわけじゃないんだけど、お前が何してるのかと思ってさ」
「この通りくつろいでいるから、心配はいらないよ」
だから出て行ってくれないかと、アスランが暗にそう言っているのは、カガリにも伝わった。
部屋に満ちる空気は張りつめ、ピリピリとカガリの肌を差す。
この部屋に存在するカガリ以外のもの全てが、カガリを部屋から排除したがっているような、そんな錯覚を覚え、居心地の悪さに息が苦しくなる。
しかしそれでも、カガリは逃げ出さなかった。
アスランに疎まれていることは百も承知で、この部屋の扉を叩いたのだ。
「アスラン、街に行かないか?」
一瞬息を止めてから、ありったけの勇気を振り絞り、カガリは唐突に切り出した。
この部屋の空気にそぐわない明るい声を無理やり出したので、それは少し震え、掠れていたかもしれない。
「え?」
「えっと・・!題名忘れちゃったけど、プラントで今凄く人気のある映画があって、地球ではやってなかったし、それが見たいんだ!近くに水族館もあるし!あと、美味しいケバブ屋さん見つけたいんだ。私ケバブが大好物だから」
まるでアスランに拒否する間を与えないようにするかとでもいうように、カガリは早口で捲し立てた。
アスランが休暇に入ったら、プラントも街を二人で回りたいとずっと思っていたのだ。
断られると確信していても、誘わずにはいられなかった。
「・・・悪いが、俺は人混みが苦手なんだ。友達と行ってくれないか」
しかし、あくまでも軽く、でも本当はありったけの勇気を振り絞って口にしたカガリの提案は、いとも容易く拒絶された。
「そういうのは、女友達とのほうが楽しいだろう」
(違う・・・!)
アスランの言葉を、カガリは即座に否定した。
映画とかケバブとか、そんなのはただの口実だ。
「私はアスランと行きたいんだ・・・」
映画が見たいのではない。
ケバブが食べたいのでもない。
ただ、アスランと二人で居たいのだ。
二人で居られるのなら、別に街に行かなくても、ザラ邸に居たっていいのだ。
だから、アスランじゃなきゃ意味がないのだ。
「アスランと他愛もない話をしながら、街をブラブラ歩きたいんだ・・」
「俺と一緒に居ても、カガリはつまらないよ」
カガリの懇願を、しかしアスランは一蹴した。
「そんなこと・・!」
「悪いけど、俺は一人が好きなんだ。正直言って、街に出るのは煩わしいんだ」
「でもお前いつも基地の中にいるだろ。折角の休暇なんだから、たまには街で買い物してみたら楽しいかもしれないじゃないか。水族館とか動物園とか行ってみたりさ」
「好きじゃないと言っているだろう。君の価値観を俺に押し付けないでくれないか、頼むから」
「ご・・ごめん・・」
今までやんわりとしか出していなかったアスランの迷惑そうなそぶりが一気に濃くなって、カガリは慌てて謝った。
「俺のほうこそ、すまないな」
「いや・・・」
アスランも謝ってくれたが、だからといって今後カガリに付き合ってくれる気は一切ない、形だけの謝罪だった。
(だったら、はっきり嫌だって言ってくれたほうがよっぽどいい・・)
打ちひしがれたカガリが部屋を出ていこうとしたとき、ふと棚に積まれた金属のようなパーツが目に入った。