第三夜

休暇で家に帰ってきてから三日、アスランはほとんど私室にこもりきりだった。
特にやりたいこともなく、だらだらと本を読んだり、提出期限がずっと先の報告書を書いたりして過ごす。
そんな日々の過ごし方は退屈で仕方なかったが、かといって他にやることも、したいことも思いつかず、アスランはただ惰性を消費するだけの無駄な時間を過ごしていた。

(あと11日もある・・)

本にも飽きて、アスランはベッドに寝っころがると、壁にかかったカレンダーの日数を数えた。
休暇はあと10日以上もあった。
休暇に入ってま三日しか経っていないのだから、それは当たり前なのだが。
いつのまにかアスランは、休暇が明けザフトに戻る日を待ち望んでいた。
軍が好きなわけではないが、ザフトに戻れば少なくとも自分のすべきこと、任務がある。
そうすれば、こんな風に目的も無く、ただダラダラと無意味に過ごすことはなくなる。


(早く戻りたい・・)



休暇なんて、いいものじゃない・・・。
そのままベッドに寝っころがり、天を見つめていると、不意にドアがノックされた。

「アスラン、いるか?」

その声は、三日前、アスランの休暇と同時にザラ邸にやってきた婚約者のもの。
アスランは思わず舌打ちしたくなった。
カガリがザラ邸で暮らすことを受け入れざるおえなくなったとき、アスランは強い拒否反応を感じた。
面倒くさいことになったと。
自室からほとんど出ないのも、カガリと顔を合わせたくなかったからだ。
食事もリビングには行かずにメイドに部屋まで運んでもらい、徹底的にカガリを避けた。
しかし予想に反して、カガリはアスランに全く構ってこなかった。
アスランの部屋の扉を叩いたのも、これが初めてのことだ。

(カガリ・・)

ドアの前にいるカガリに、アスランはどうしようかと一瞬考え込んだ。
カガリの相手など、したくない。
一人でいたいと言って、追い返したい。
けれども・・

―――坊ちゃん、さっきの態度は良くないな。

カガリにここで暮らすと告げられた後、ザラ家の執事でもあり、アスランのお目付け役でもあるバルトフェルドと二人っきりになったとき、アスランは彼にそう窘められた。

―――いきなり押しかけてきたお嬢ちゃんも悪いが、あんな言い方は駄目だろう。お嬢ちゃん、今にも泣きそうだったじゃないか。

確かにあのときはあまりのことに、アスランは取り繕うことを忘れ、少しきつい言い方をしてしまったかもしれない。
それにこの前ザフトにカガリがやってきたときも、電話で厳しい言い方をした。
これ以上辛くあたって、オーブのアスハ代表にでも泣きつかれでもしたら厄介だ。
カガリとは、間に何の感情も挟まない形だけの夫婦でいればそれでいい。
波風は立てたくない。
それなのに、カガリがアスランの予想だにしない行動ばかり取るので、ついアスランも調子が崩れ、穏やかで礼儀正しい婚約者の仮面が外れてしまいそうになる。
こんな失態は今までないことだった。

(・・・仕方ない)

アスランは重いため息を吐くと、視線を天井に向けたまま、無機質な声で返事をした。

「ああ・・いるよ」

「今、大丈夫か?」

「ああ」

「えっと・・中に入ってもいいか?」

「ああ。鍵は開いてる」
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