第三夜

訓練とその後のミーティングが終わり自主トレーニングもこなして、アスランが私室に戻ってきたときには、時刻はすっかり真夜中だった。
赤服の上着を脱ぎ楽な恰好になると、アスランはそのままベッドに腰掛けた。
一人部屋なので誰に気兼ねすることもない。

「はあ・・・」

明日の訓練も早朝からだ。
明日に備える為にも早く眠りたいアスランだったが、なかなか眠気はやってこない。
どこでもすぐに眠れるのはアスランの特技であり、図太い神経とイザークに陰口を叩かれることもあったが。
戦闘時という特殊な状況下に身を置くことのある軍人にとって、それは大切なことでもあった。
しかし。

(ラクス・・)

ラクスに婚約破棄を告げられたあの日から、以前の自分が嘘のように最近のアスランは酷く寝つきが悪かった。
初めは胸をチリチリと刺す痛みのせいだった。
しかしキラと対面した日から、それに沸々とした怒りが加わった。
ラクスが自分から離れていった悲しみと苦しみ。
ラクスを奪ったキラへの怒りと憎しみ。
それらがせめぎ合い、アスランの心を傷つけるのだ。

(ラクス・・・)

彼女さえ戻ってきてくれれば全てが解決するのに。
けれどそんなことは決してないとも分かっていた。
だからこそ行き場のない感情は醜い炎となって、双子へと向かうのだ。
キラは当然のことながら、カガリにも。

(あの女、いきなり基地にやってくるなんて)

数日前、白い廊下の先にカガリの姿を目にしたとき、アスランは自分の目を疑った。
基地にカガリが現れるなど想定もしていなかった。
カガリとは政略結婚なのだ。
形式的な夫婦でいられればそれで良いのだと思っている。
本音を言えば夫として物理的な援助は惜しまない代わりに、私的な関わりは一切持ちたくなかった。
それなのにカガリはザフトにやってきた。
手料理まで携えて。
アスランにどう思われているか、知りもしないで。
存在自体が疎まれているなど、きっと彼女は思いもしないだろう。

(なんて愚鈍な女だ)

カガリさえいなければ、パトリックはアスランに新しい縁談など持ち込まなかったのだ。
新しい縁談を強制されなければ、アスランはラクスとの婚約破棄を頑として認めることはしなかったのに。

(カガリの存在自体が、俺とラクスの未来を奪ったんだ)

だから許せなかった。
それなのにアスランの苦悩も知らず、婚約者面してのこのことザフトまでやってくるなど、なんて身の程知らずなのだろう。

もちろんカガリが持ってきた手料理は食べずに捨てた。
貰ったときに嬉しいとも思わなかったカガリの手料理は、捨てるときも勿体ないとは思わなかった。
もともと幼いころに母が死に、ザフトの士官学校育ちで固形食を食べ慣れたアスランに、手料理など見慣れぬ異質なものでしかなかったのだ。
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