第二夜

その夜、カガリのもとに、アスランから通信が入った。
映像は無く、音声のみとはいえ、アスランからの初めての通信だった。

「カガリ・・・ああいうの、やめてくれないか」

初めて繋げてくれた通信で、アスランは開口一番にそう告げた。

「軍には色んな人がいるんだ。一般人が遠足気分で軽々と来ていい場所じゃない」

「そうだよな・・本当にその通りだ。ごめん、軽はずみなことをして」

アスランの重く固い口調に、カガリは考える間もなく、気が付けば謝っていた。
実際に会いに行ったときの感触で、彼が迷惑そうにしていることは嫌でも分かっていたから、アスランからの初めての着信に胸を躍らせるような愚かな真似はしなかった。
それでも、モニター越しに苦言を告げれれれば、カガリの胸はこれ以上ないくらい萎縮した。

「・・・分かってくれればいいんだ」

カガリの間を開けない謝罪に、アスランは気まずそうに言った。

「うん・・迷惑かけて本当にごめんな」

「・・・今日は当直なんだ。だから・・」

「あっ・・うん!ごめんっ・・じゃあ切るな!頑張れよ!本当に今日はごめんなっ。じゃあっ・・」

一気にそう捲し立てて、カガリは通信を切った。
一刻も早く、アスランとの繋がりを絶ちたかったのだ。
通信を切るとカガリはベッドに倒れ込んだ。
酷い自己嫌悪に襲われていた。

(私、馬鹿だ・・・)

独りよがりの親切を、無理やりアスランに押し付けた。
良かれと思ってやった行動が、今ではとんだ間抜けで愚かな行為だと、心の底から思う。
寝返りを打って、顔をベッドに押し付ける。

(アスランと仲良くなりたかったんだ、私は・・)

だから、やらずにはいられなかった。
純粋に、彼に近づきたかったのだ。
だけど、それはいけないことなのだろうか。
彼の心の壁は、越えてはいけないものなのだろうか。
その奥にある彼の心に、触れてはいけないのだろうか。

(そんなこと、ないはずだ)

だって、二人は夫婦になるのだから。
健やかなるときも、病めるときも一緒にいるのが夫婦なのだから、誰よりも彼を理解して、一番近くで彼を支えたい。
それがカガリの思い描く夫婦像だった。

(今回はやり方が悪かったんだ)

アスランの言うとおり、いきなり職場、それも基地に尋ねて行くのは、やはり非常識なことで、アスランが嫌な気分になるのも当然だ。
だったら、他の手段を選べばいい。
アスランと仲良くなる方法は、いくらでもあるはずなのだから。
きっと。
だけど、それだけじゃない。

(アスランに、もっと会いたいんだ、私が・・)

それがカガリの胸の奥、一番素直な想いだった。
カガリは婚約者に、確かに恋をしているのだった。











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