第二夜
婚約披露パーティーが終わってからも、アスランは変わらなかった。
どうしても必要なときはやってくるが、忙しいを理由に、 プライベートでは全くカガリと会う機会を作らない。
(やっぱり政略結婚ってこんなもんか・・)
アスランと婚約してからのことを思い返し、カガリは再び溜息を吐いた。
大分考え込んでいたらしい、いつのまにか窓の外はとっぷり日が暮れていた。
(透明な膜で覆われているみたいだ、アスランは)
顔を会わすとき、アスランは紳士的で優しい。
けれども、その優しさに安心して近づこうとすると、やんわりと拒絶される。
決して懐には入れてくれない。
そこで初めて、彼の周りに透明な膜が張っていたことに気が付くのだ。
目に見えないけれど、確かに存在する壁。
(でも、それって、寂しくないか・・・)
周りを受け入れないということは、自分一人で生きていくということだ。
嬉しいときも、哀しいときも、誰とも感情を共有することなく。
その悲哀は、オーブでたくさんの愛情に囲まれ育ってきたカガリにとって、耐えられないものだった。
(アスランだって、本当は寂しいんじゃないか・・)
そう思ったとき、不意に父の言葉が頭をよぎった。
―――幸せに生きよ、カガリ
それは、プラントに出立する際に、贈られた言葉だった。
「よしっ!!」
敬愛する父の言葉に励まされるように、カガリは椅子から立ち上がった。
ぐるぐる考え込んでいても、何も始まらない。
とりあえず、行動を起こすのだ。
考えるのは、それからでいい。
思いたったらすぐ行動が持ち味のカガリなのだから。
真っ直ぐなカガリに、くよくよ悩むのは似合わないのだ。
「へえ~ここがザフト軍の基地かあ・・・」
白い廊下を歩きながら、カガリはキョロキョロとあたりを見回した。
「案外、普通の建物なんだな」
「ここは機密レベル一のエリアだから、あんまり軍備に関係した区画じゃないんだよ。図書館とか、そういう施設が入ってる」
物珍しそうに施設を眺めるカガリの横を歩く色黒の青年が説明した。
エリートの証、赤服を纏っているが、彼の瞳はいたずらっ子のように輝いている。
「でもさあ、アスランの婚約者がここを訪ねてくるなんて、ビックリだよ」
「アスランには無断だがな。アスランがどんなところで働いているか、知りたかっただけだ」
すれ違う軍人たちの視線に居心地の悪さを感じながら、カガリは早口で言った。
カガリが今歩いている場所は、ザフト軍アプリリウス駐屯基地。
カガリのような普通の女の子がいる場所ではないので、どうしたって目立ってしまうのは仕方のないことだった。
(でも、私はここに来たかったんだから、後悔はしていない・・・)
アスランと打ち解ける為には、まず彼をよく知る必要がある。
そう思って、カガリは単身アスランの常駐する基地にやってきたのだ。
当然基地は、軍の関係者以外は立ち入り禁止だが、カガリはオーブの姫であり、アスランの婚約者という特別な立場にある。
たまたま近くを通りかかった、ディアッカという名のアスランと同じ隊の青年が護衛を申し出てくれたことも幸いして、門をくぐることを許されたのだ。
「へ~アスラン愛されてんだなあ」
カガリの言葉に、ディアッカは羨ましそうに空を仰いだ。
「あの・・あのさ、ディアッカ」
「ん?」
「あの・・アスランって、ザフトではいつもどんな感じなんだ?」
「ん~軍人としては優秀で、非の打ちどころのない奴かな」
「そ・・そうか」
「でも真面目すぎるとこあるし、何かあっても滅多なことじゃ顔に出さなくて、何考えてるか分からないな、正直」
(やっぱり・・)
アスランは軍でも自分の心を開いてはいないのだ。
職場なのだから当たり前かもしれないが、きつい訓練をともにする同じ隊の仲間とは、打ち解けても何の問題はないように、カガリは思えた。
「やっぱり軍だと、みんなライバルって感じで、友達とかできないのか?」
「そんなことない。ライバルであり友人って感じだよ。まあ、周りは俺のことどう思ってるかしらないけど」
「そっか・・」
やはり軍の環境のせいではない。
(アスランが拒絶してるんだ)
もっと詳しくアスランの軍生活を訪ねようとしたカガリだったが、正面の角から現れた濃紺の髪の少年に、思考も目も奪われてしまった。
思わず彼の名を呼ぶ。
「アスラン!」
どうしても必要なときはやってくるが、忙しいを理由に、 プライベートでは全くカガリと会う機会を作らない。
(やっぱり政略結婚ってこんなもんか・・)
アスランと婚約してからのことを思い返し、カガリは再び溜息を吐いた。
大分考え込んでいたらしい、いつのまにか窓の外はとっぷり日が暮れていた。
(透明な膜で覆われているみたいだ、アスランは)
顔を会わすとき、アスランは紳士的で優しい。
けれども、その優しさに安心して近づこうとすると、やんわりと拒絶される。
決して懐には入れてくれない。
そこで初めて、彼の周りに透明な膜が張っていたことに気が付くのだ。
目に見えないけれど、確かに存在する壁。
(でも、それって、寂しくないか・・・)
周りを受け入れないということは、自分一人で生きていくということだ。
嬉しいときも、哀しいときも、誰とも感情を共有することなく。
その悲哀は、オーブでたくさんの愛情に囲まれ育ってきたカガリにとって、耐えられないものだった。
(アスランだって、本当は寂しいんじゃないか・・)
そう思ったとき、不意に父の言葉が頭をよぎった。
―――幸せに生きよ、カガリ
それは、プラントに出立する際に、贈られた言葉だった。
「よしっ!!」
敬愛する父の言葉に励まされるように、カガリは椅子から立ち上がった。
ぐるぐる考え込んでいても、何も始まらない。
とりあえず、行動を起こすのだ。
考えるのは、それからでいい。
思いたったらすぐ行動が持ち味のカガリなのだから。
真っ直ぐなカガリに、くよくよ悩むのは似合わないのだ。
「へえ~ここがザフト軍の基地かあ・・・」
白い廊下を歩きながら、カガリはキョロキョロとあたりを見回した。
「案外、普通の建物なんだな」
「ここは機密レベル一のエリアだから、あんまり軍備に関係した区画じゃないんだよ。図書館とか、そういう施設が入ってる」
物珍しそうに施設を眺めるカガリの横を歩く色黒の青年が説明した。
エリートの証、赤服を纏っているが、彼の瞳はいたずらっ子のように輝いている。
「でもさあ、アスランの婚約者がここを訪ねてくるなんて、ビックリだよ」
「アスランには無断だがな。アスランがどんなところで働いているか、知りたかっただけだ」
すれ違う軍人たちの視線に居心地の悪さを感じながら、カガリは早口で言った。
カガリが今歩いている場所は、ザフト軍アプリリウス駐屯基地。
カガリのような普通の女の子がいる場所ではないので、どうしたって目立ってしまうのは仕方のないことだった。
(でも、私はここに来たかったんだから、後悔はしていない・・・)
アスランと打ち解ける為には、まず彼をよく知る必要がある。
そう思って、カガリは単身アスランの常駐する基地にやってきたのだ。
当然基地は、軍の関係者以外は立ち入り禁止だが、カガリはオーブの姫であり、アスランの婚約者という特別な立場にある。
たまたま近くを通りかかった、ディアッカという名のアスランと同じ隊の青年が護衛を申し出てくれたことも幸いして、門をくぐることを許されたのだ。
「へ~アスラン愛されてんだなあ」
カガリの言葉に、ディアッカは羨ましそうに空を仰いだ。
「あの・・あのさ、ディアッカ」
「ん?」
「あの・・アスランって、ザフトではいつもどんな感じなんだ?」
「ん~軍人としては優秀で、非の打ちどころのない奴かな」
「そ・・そうか」
「でも真面目すぎるとこあるし、何かあっても滅多なことじゃ顔に出さなくて、何考えてるか分からないな、正直」
(やっぱり・・)
アスランは軍でも自分の心を開いてはいないのだ。
職場なのだから当たり前かもしれないが、きつい訓練をともにする同じ隊の仲間とは、打ち解けても何の問題はないように、カガリは思えた。
「やっぱり軍だと、みんなライバルって感じで、友達とかできないのか?」
「そんなことない。ライバルであり友人って感じだよ。まあ、周りは俺のことどう思ってるかしらないけど」
「そっか・・」
やはり軍の環境のせいではない。
(アスランが拒絶してるんだ)
もっと詳しくアスランの軍生活を訪ねようとしたカガリだったが、正面の角から現れた濃紺の髪の少年に、思考も目も奪われてしまった。
思わず彼の名を呼ぶ。
「アスラン!」