第二夜

おかしいと思い始めたのは、プラントに来てすぐの頃だった。

「ザフトの訓練が忙しくて、次に会いに行ける日が分からないんだ。すまない、カガリ」

その台詞を一体何度聞いただろうか。
カガリが結婚準備の為プラントに移住しても、アスランは滅多にプライベートで会いに来てはくれなかった。
婚約パーティーや結婚についての打ち合わせも、代理人が代わりにやってきて彼が顔を出すことはほとんどなかった。
アスランはザフトの軍人だから仕方のないこととはいえ、彼と顔を合わせた回数は初顔合わせを含め、たったの三回だった。
いくらなんでも、それは少なすぎるのではないだろうか。

(でも、ザフトって大変そうだし、アスランはそこでエリートなんだもんな。忙しいに決まってるよ)

そう自分に言い聞かせて、カガリは自分から積極的にプラントを知ろうとした。
アスランとの新居に入るのは正式に結婚してからなので、現在カガリはザラ家が用意した高級マンションの一室で暮らしている。
当然召使も雇ってくれていて、生活に全く不自由はなかったが、心はどうしたって退屈だった。
そんなわけで、カガリは積極的に外に出ようと心がけ、苦手なパーティーや催し物に出席するようになり、そこで初めて出来た友達がラクスだった。
オーブの姫であり、アスランの婚約者であるカガリはどこにいっても注目も的で、近づいてくる者は多くいた。
しかしそのほとんどが何かしら利権目当てであることに、カガリはすぐに気が付いた。
普段は鈍感な性質なのに、人の深い部分にはとても敏感なのだ。
そんななか何の打算もなく、純粋にカガリと友達になりたいと言ってくれたのがラクスだった。
見た目も性格も正反対だったが、いやだからこそなのか二人は非常に馬が合い、すぐに親友になった。
色んな打ち明け話をしていくなかで、ラクスが以前アスランの婚約者だったということも知った。

「え・・お前、いいのか?」

その事実に、カガリはラクスにおそるおそる尋ねた。
色々と複雑な想いを胸に抱いているのではないかと思ったからだ。

「ええ。わたくしたち、婚約者ではありましたけど、そこに特別な感情はありませんでしたのよ」

しかしラクスは笑顔であっさりと言った。

「むしろわたくしの方からアスランに婚約破棄を申し出ましたのよ。だって、他に好きな人ができたんですもの」

そのあっけらかんとした物言いに、カガリは拍子抜けしたが、安堵したのも事実だった。

「そう・・なんだ。ラクスの好きな人・・気になるな。どんな人なんだ?」

「ふふ。優しくて、でもとても強い方ですの。あ、こちらに写真がございますわ」

「どれどれ・・・」

ラクスが机の上から可愛らしい写真立てを手に取り、カガリに手渡してくれた。

(って・・・キラ?!)

「どうなさいましたの?」

「い・・いや・・確かに優しそうな奴だなって。よ・・良かったな!好きな人ができて」

予想しないところで双子の弟と出くわし、動揺を隠せなかったカガリだったが、幸いラクスは気が付かなかったようで嬉しそうに微笑んだ。

「ええ。彼とはお付き合いしておりますの。それに、私もアスランがカガリさんと婚約されて、とても嬉しいんですのよ」

「え?」

「アスランもやっと心から愛せる方を見つけられたのだと、わたくし安心致しました」

「心から・・・?」

「ええ。でなければ、こんなすぐに結婚を決めませんわ」

(そう・・なのかな・・)

ラクスの言葉に、カガリの心が重く沈みこんだ。
嬉しそうに言うラクスの言葉に、少しも同意ができなかったからだ。

(だって・・)

本当に心から愛している人を、長期間連絡も無しに放っておけるものだろうか。
本当に心から愛しているならば、すこしの時間でもいい、会いたいと思ってくれるのではないのだろうか。
それはずっと、あまり考えないようにしてきたことだった。
少しでも考えたら、望まない答えに行きついてしまう気がして、無意識的にそれを避けてきたのだ。
ずっと積もり積もった鬱憤がカガリの心をじくじくと傷つけるが、カガリは今回も心に蓋を閉め顔を背けた。
追いすがってくる胸の痛みを振り切り、カガリは明るく答える。

「そうかな。そんなことないと思うけど。とにかく、恥ずかしいからこの話はやめだ」

今度は動揺せずに上手く言えたと思った。
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